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夜明けへの迎接

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こんなにも胸が躍る気分になったのはいつぶりだったろう。それこそ6歳の、あの日以来かもしれない。
早く、早く。
続きを読みたくて。
早く、早く。
ページを捲るのももどかしい。
それなのに、なんだかとても眠くて、いつしか目を閉じていた。





ふと、気配を感じて顔を上げる。と、すぐ隣に自分の顔があった。
寝ている間に誰かが鏡を置いたのか?何のために?
寝ぼけた頭でぼんやりと考えていると、不意に鏡の中の俺が笑った。
「はる、寝ぼけてないで早く続き読んでよ!それで、ロビンフッドは何て?」
急かすように名前を呼ばれて、自然に手元の台本に目を向ける。
「……ああ、ごめん。ちょっと寝ちゃってたみたいだ……。どこまで読んだんだっけ?」
「『我こそが勇者!』」
「ああ、ここか。続きは、ええと……『我こそが勇者!悪逆非道、傍若無人の限りを尽くし、民草に艱難辛苦を強いる貴様らに、我が今、ここで、正義の鉄槌を下すっ!』」
「ぎゃはは!何そのセリフ!」
「笑うなよ……これ、俺が言うんだからな……」
「いや、すげーかっこいいよ!だって勇者だもん!はるがやりたくないなら、俺が代わりにやってやろうか?だって、俺の方が似合ってるし!」
「誰もやりたくないなんて言ってないでしょ!ほら、セリフ合わせ手伝ってよ」
「俺もロビンフッドがいい!」
「それじゃあ練習にならないじゃない。全くしょうがないなぁ……じゃあ交代でロビンフッドをやろうか。前後のセリフを覚えるのも悪くはないし、それなら文句ないでしょ?」
「OK!よし、じゃあ『我こそが勇者!』」
「えー……俺の役なのに……」
「文句言わない!」
「なんだよ、それ……」
頬を膨らませながら隣を睨みつけた時、そういえば、と思う。
「あれ?隣にいるね」
思わず口にする。
すると、俺と同じ顔が不思議そうに見つめてくる。
「ずっといたじゃない。はるは後ろばかり気にしていたみたいだけど」
「そっか……ごめんね」
目を伏せると、目の前の俺が首を振る。
「別にいいよ。だって、はるは気付いたんだから。ねぇ、折角だから乾杯しようよ。一人でそんなモノ飲むなんてずるいじゃない」
テーブルに置かれたワインボトルに目をやり、今度はもう一人の俺が頬を膨らます。
「ごめんごめん、気付かなかった。注いであげるから機嫌直してよ」
「俺にロビンフッドやらせてくれれば」
「もう……またそれ?」
俺は呆れながら二つのグラスにワインを注いだ。
朝焼けを予兆する空のような、濃紫の液体でグラスが満たされる。
俺たちはそのグラスを手にして、目の前に掲げた。
「何に乾杯するの?」
「そうだな……俺たちの夜明けに、なんてどう?」
「なんか臭くない?」
「じゃあ何にするのさ?」
「いいよ、それで」
「それじゃあ、俺たちの夜明けに乾杯、はる」
「乾杯、とも」
そして、グラスを合わせる。
涼やかな音色が響く中、俺たちは顔を見合わせて笑うと、同時にグラスを傾けた。
作品名:夜明けへの迎接 作家名:akr