I will live for you.
「またいつもの場所か…。」
宿舎の前,ひと気のない道には、寂しげな足跡がついているように見えた。
マークはゆっくりと歩き出す。
遠くから見続けていた情けない自分を捨てるために。
□■□■□
「…見つけた。」
サッカーボールの前に立つ少年は,その声に驚いたように振り返った。
「マーク―――…。」
「朝から練習か? カズヤらしいな。」
フェンスにもたれかかる背中を,一之瀬は静かに見つめる。
そして小さく息を呑むと,笑った。
「ああ。マークこそ,何でこんな早くに?」
沈黙をごまかすように,風が微かに音を立てる。
「たまたま目が覚めて眠れなくなった,そんなところだ。」
あたりの空気に似つかわしくない,他愛もない会話。
それもここまでだというように,一之瀬が笑みを消す。
「俺に…何か用?練習中,なんだけど。」
マークはそれも気にしていない様子で,振り返りもせずに返した。
「何か,知られたくないことでもあるみたいだな。」
質問の答えにはなっていないが,その言葉は核心をついていたようだ。
一之瀬の表情が凍りつく。
「ここ最近,様子がおかしいとは思っていたが…。何かあったのか? 」
気遣ったらしいマークの問いかけに,上手く抑揚のつけられていない声が返された。
「別に…そんなんじゃ,ないんだ。ちょっと色々,考えることがあって…。
っ…それにほら,次はイナズマジャパンとの試合だからさっ。」
空元気のような声を聞き終えると,マークはそっとため息をついた。
「そうか。無理はしないようにな。時間がきたら,また呼びに来る。」
結局お互い一度も目を合わせないまま,曖昧な会話は終わる。
離れていく足音に罪悪感を覚えながら,一之瀬は呟いた。
「 。」
□■□■□
負けたくない…負けたくない…
「負けられないんだよ,絶対に! 最後の試合になるかもしれないんだ!! 」
弱気になりかけていた翼を,もう一度広げるために。
自分が燃え尽きるまで走り続けるために。
一之瀬一哉は,叫ぶ。
「だから…ごめん…。」
どうか,どうかどうかどうか。
――――俺の最初で最後の嘘を,許してください。
未だに頭から離れない後ろ姿。
溢れ出す涙が止まらなかった。
きっと後悔は,しないから。
□■□■□
「…カズヤ。」
うずくまる小さな体が,そっと抱きしめられる。
「――どう,して…。」
震えた声が,怯えるように尋ねた。
マークは,一之瀬を抱きしめる腕に力を込める。
「約束を,しよう。俺が必ずカズヤを守る。だから…精一杯戦うんだ。
勝って,一緒に笑って欲しい。」
言い切れる根拠もない約束。
それでもきっと,届いたはずだ。
弱音を吐かない少年は,想いの込められた腕の中で,
声を上げて泣いた。
作品名:I will live for you. 作家名:あさぎ