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ぐらにる 流れ 抱き枕

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たまに、眠れない夜がある。展望室で、真っ暗な宇宙を眺めていると、いろいろなことが走馬灯のように広がっては霧散していく。過去は変えられない。だが、未来は変えられる。そのために、ここにいるのだ。

・・・・そういや、そろそろだな。今回は無理そうだから、カードでも贈ってやろうかな・・・・・

 すぐに、安眠抱き枕の記念日が来る。シフトの加減で、今回は、それに間に合いそうもない。だから、誰か地上に降りる人間に、投函だけしてもらおうと思っていた。次は、刹那の番だ。だから、頼んでも大丈夫だろう。



「え? 俺も? 」
「そうです。付き合っているんだから、一緒に降りて、いちゃいちゃしてきてください。」
「はあ? 」
「休暇はリフレッシュするためのものだと、僕は記憶しています。それなら、いちゃいちゃするのが、何よりなのではありませんか? 」
「え、いや、ティエリア。おまっっ、何言って・・」
「すでに、決定事項です。二三○○に小型艇を出します。準備してください。」
 どういうわけなのか、組織一の堅物は、そんなことを言って、休暇シフトを変えてしまった。本来は、ひとりずつ降りると決めていたはずの休暇だ。残りは、機体のテストだとかチェックに専念するはずだった。だのに、何がどうなっているのか、そんなことを言って、勝手にシフトを書き換えたのだ。
「あの、アレルヤ、これって・・・」
「ティエリアが刹那との仲を認めたってことだと思いますよ? ロックオン。いいじゃないですか、僕らも、この後に休暇を貰いますから。」
 小型艇を操縦するのは、アレルヤで、刹那に引き摺られるようにして搭乗させられた。マイスターが半分不在なのは、まずかろうと拒否しようとしたのだが、誰も、そんなこと、丸っと無視した。
「まだ、世界情勢は変動的です。すぐに、どうこうということはありません。」
「わかってるけどさ。」
「くくくくく・・・僕らからは、これをプレゼント。一々、特区経由しないで、そのまま、どうぞ。」
 渡されたチケットは、軌道エレベーターから直通でユニオンに行ける航空チケットだ。それも、一人分。
「刹那は? 」
「俺は、特区の待機所へ降りる。おまえとは別行動だ。五日後に戻れ。そこからは、一緒に行動する。」
「それならさ、一緒にユニオンへ行って観光しようぜ? おまえさん、テーマパークとか行ったことないだろ? 」
 折角の休暇なのだから、そういうところに案内してやろうと思ったら、軽く裏拳を胸に入れられた。
「あんたはバカか? そういうことは、あっちで、あれとやってこい。」
「ほんと、バカだよな? ロックオン。俺らにはバレてんだから、誤魔化すんじゃねぇーよ。」
 アレルヤはハレルヤに代わって、ゲラゲラと笑っている。確かに、このふたりには、「気晴らし」している相手があることは、バレている。だが、直行でユニオンに向かったことは、携帯端末のGPSでバレてしまう。ティエリアにバレるのも時間の問題だ。
「おまえの携帯端末は、俺が預かる。例によって例の如く、おまえに無理させて出られない、と、言い訳しておくから、心配無用だ。」
「刹那さん、それ、あんまり言い訳に使わないで欲しいんだけど? 」
「けけけけ・・・今更だろ? おまえが抱かれて潰されているってことで、ティエリアは納得してんだぜ? 」
 有り難くない言い訳だが、それで納得されているのは事実だ。だから、定時連絡に出れなくても、ティエリアは五月蝿く言わなくなった。それから、と、ハレルヤが、別の携帯端末を渡してきた。
「これ、緊急用。何も登録はしてないから、自分で入力して使え。」
「なんで? 」
「どっかのバカがさ、インフルエンザでぶっ倒れたことがあったろ? そういう場合に、こっちへ連絡してこれるようにだ。刹那の携帯端末の番号ぐらいは叩けるだろ? 」
 以前、インフルエンザを患って、そのまま寝込んだことがある。その時は、刹那が、「気晴らし」相手に、メールを入れて看病させるという離れ業で、どうにかしてくれた。そういう場合を考えてのことだ、と、言う。
「それは組織と、まったく関係のない市販のものだ。そこからは、情報は引き出せないが、ユニオンを離れる時に破棄してこい。」
 刹那に念を押されて、はい、と、頷くと、ハレルヤは、またゲラゲラと笑っている。




 携帯端末に、「ニール」 というタイトルのメールが来たのは、これで二度目だ。また、何事か緊急か、と、開いたら、今度は到着時間のお知らせと、出発時間のお知らせだった。どうやら、私の姫のアリバイ工作の相手が気を利かせてくれたらしい。
「ふむ、これなら、いい時間だ。」
 滞在は三日。特区へ向かう飛行機に姫を乗せるまでが、私の独占時間だ。これさえ解れば、きっちりと三日間、相手が出来る。いつもは、いきなり現れるから、それから休暇の調整をすることになって、ゆっくりと居られる時間は短くなる。
「その志、しかと受け取った。感謝するぞ、姫の関係者くん。」
 すぐに、休暇申請をして、ビリーにも声をかけて、私は、逢瀬の計画を組み立てることに専念した。どうしても、部屋で過ごすばかりで、どこへも行ったことがない。たまには、姫と外出も楽しみたい。そして、私が行ってみたいと、常々思っていた場所は何箇所かある。そこへ、姫を誘うのもよかろうと考えていた。





 軌道エレベーターで別れてから、ユニオンまで内心、ヒヤヒヤしながら辿り着いた。来るとは告げていないから、もしかしたら、どこかへ出張しているかもしれない。まあ、それならそれでいいのだ。居なければ、あの部屋の掃除をして、のんびりとベッドで安眠するのも悪くない。なぜか、あのベッドでは魘されず、ぐっすりと眠れるからだ。
 アライバルゲートから外へ出たところで、肩を叩かれて、びっくりした。そこには、居るはずのない安眠抱き枕が立っていたからだ。そして、空色の制服ではなく、カジュアルな普段着を身に着けていた。
「姫、ようこそ、我が茨の城へ。」
 恭しくニールの左手を持ち上げて、手袋越しに手の甲にキスをする。なんで、こいつが、ここにいるんだ? と、驚いてニールのほうは、口が動かない。連絡もしていないし、この時間に到着するなんて、絶対に、この男は知らないはずだ。
「きみのアリバイ工作をしてくれている同僚くんからメールが入った。それで、私は休暇をとり、きみを出迎えていたのだよ。きみの同僚くんに感謝の言葉を伝えて欲しい。お陰で、いつもより長く、きみと過ごせる。」
「うえ? 」
 まさか、刹那が、そんなことをしていたとは露ぞ気がつかなかった。実際は、ティエリアが、いくつものサーバーを経由して、グラハムのアドレスへ送りつけたものだ。せっかくの「気晴らし」なら、存分にさせてあげたい、というのが、ティエリアの目的だった。だが、当のニールは、ティエリアにバレていることも知らない。
「今日は、外でのデートを所望する。私が計画したプランを実行してもいいだろうか? 姫。」
「どっどこに行くんだ? おまえさんの面が割れてて、マズそうなとこは遠慮すんぞ。」
「くくくく・・・私の関係者は絶対にいない場所だ。安心してくれていい。疲れてはいないか? 姫。」
「ああ、元気だぜ。」
作品名:ぐらにる 流れ 抱き枕 作家名:篠義