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フェリシアーノ・ヴァルガスと幸せになりにいくお姉さん

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 「永遠にこの時が続けばいい」なんて、恐らくさんざん映画やドラマや小説で使い古されたような台詞を、それでも今日ほど使いたくなった日は久々だと、フェリシアーノはそう心底思った。それほどいい日だった。フェリシアーノは小さなチャペルでの結婚式に訪れていた。
 白いマーメイドラインのドレスでヴァージンロードを歩く花嫁は、何かと気にかけてくれた、歳上の、明るく強く綺麗な人だった。隣の家の住人で、長い間(といっても、彼女はまだ若いだろう。しかし少なくとも、フェリシアーノたちと知り合って今までの期間は)一人で住んでいた。外へ出ていると何かと会ったし、作りすぎたといって時々料理を分けてもらったりもした。人の気持ちを察するのが上手く、言いたいことと言うべきことの分別がしっかりあり、フェリシアーノにとって憧れであり敵わない、ほとんど姉のように思っていた。基本的に家から出払っている兄がどうだったかはわからないが、少なくともフェリシアーノはとても世話になった、大好きな人だと思っていた。
 その彼女が結婚すると聞いたのは、一週間前、本人からだった。家までの帰り道、ばったり会った。その日は数日間の会議のあとで、帰って来がてら買い物へ行った(今回の会議は日本だった。料理がとても美味しく、フェリシアーノはとても満足していたのだが、帰ってすぐやはり自国の味が恋しくなったのだ)。食料を買い、歩いている途中で後ろから声がし、振り向くと彼女がいた。いつもと雰囲気が違う、特別に綺麗な格好をしていて、どうしたのかと尋ねた。彼女は、結婚するのだと答えた。そして、投函しようと思っていたらしい招待状を手渡された。あれほどこみ上げるような嬉しい気持ちがしたことは、フェリシアーノには久々だった。思わず彼女に抱き付いたことを覚えている。彼女は笑って抱き締め返してくれたのだ。
 ある時から、想う人が出来たのかもしれないとフェリシアーノはなんとなく察していたが、あえて聞かずにいた。だから喜んでいたり、落ち込んでいる風を隠しきれていなかったりした時もあり、ずっと気にかけてはいたのだが、それも言えずにいた。だから、朗報はフェリシアーノをほっとさせた。それも、彼女に言ったらきっと顔を真っ赤にさせて余計なお世話! と叩かれてしまうのかもしれないが(その時だって、彼女の顔はきっと微笑んでいるに違いない)。
 ともかく、そんなことがあり、今日に至っている。兄も誘おうと思った矢先、アントーニョのところでトマトの収穫を手伝うと連絡を受け、残念ながらも一人で出席したのである。
 チャペルから移動した会場は、がやがやと幸せそうな話し声に満ちていた。フェリシアーノは何人かと話をしたあと(もちろん料理も堪能してだ)、ルートヴィヒから連絡が入っていたのでかけ直し、それを終え、壁際に寄りかかっていた。すると、ドレスから着替えたのか、少し身軽な格好で駆け寄って来る人影が見えた。手を振っている。フェリシアーノが手を振り返すとニコリと笑った。
「来てくれてありがとうフェリシアーノ!」
 満面の笑みで抱き締められ、片手にグラスを持っていたので、もう片方の手で抱き締め返す。彼女は自分より少し背が高い。どうせ格好など付かないのである。
「こちらこそ本当におめでとう~。すごく綺麗だね、俺、旦那さんに嫉妬しちゃうよ」
「フェリシアーノだって充分素敵よ。未来の奥さんが羨ましいわ」
 未来、という単語を聞いて、ほんの一瞬だけ思考が止まった。フェリシアーノは未来のことを考えるのが嫌いだった。それは、必ず誰かとの別れを示唆するものであったからだ。過去のことに対しても同様で、そう、怖かった。
 今が楽しくて、それ以上何もいらない。だからこそフェリシアーノは、素直な考えを飲み込んで、笑顔を彼女に向けた。
「天気もいいし、料理も美味しい。何より、みんな幸せそう。俺、今すっごく幸せだよ」
「私も今、とても幸せ。今日はいい日ね、本当に良かった」
 にこりと笑う彼女の左手薬指の指輪も、小ぶりながら輝いて見える。フェリシアーノにもまた自然と笑みがこぼれた。
 少し遠くから、彼女を呼ぶ声がした。
「ああ、行かなくちゃ。本当にありがとうフェリシアーノ、大好きよ。楽しんでいってね」
「俺こそ本当にありがとう、幸せになってね」
 彼女はにいっと笑い、フェリシアーノの頭をぽんと叩き、「もちろん!」と力強く言うと、呼ばれた方へ歩いていった。
 人がたくさんいるこの空間を、フェリシアーノは好きだと思った。この時間だけであっても、誰かの幸せを皆で共有している。そのことのどれほど貴重なことか。
(愛し愛されて一緒になれたあの人はきっと世界で一番幸せで、俺だってその幸せを共有出来たんだから、一番幸せ。みんなが一番幸せになれたらみんな幸せ、一番を奪い合わなくて済む。どうして一度にみんなが一番幸せにはなれないんだろう、わかっているけど、わからないなあ…なんて、ただの我儘なのかなあ)