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踏み出す

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「アムロ君。MSに乗る気になったのか?」

クワトロはリック・ディアスのコックピット入口から中に居たアムロに声を掛けた。

「ああ。貴方に笑われたくはないからな」

ぶっきらぼうに返事をしたアムロがスイッチをパチ、パチと、何ヶ所か押すと全天周囲モニターが起動し、整備員が忙しく動き回るデッキの映像が周りに映し出された。
更にスイッチを押して文字情報を追加表示させると、持っていたチェックシートに書き込む。

黙々と作業を進めるアムロを見ながらクワトロはコックピットに入り込んだ。
彼の邪魔にならない様に、シートの後ろから作業を見守る。

アムロは一度だけクワトロに視線を寄越したが、
溜め息を一つ零してからはクワトロを無視して動作確認を続けていた。


操作音とペンを走らせる音だけがコックピットの中に響く。


しばらくすると、クワトロがシート横に進み出て、アムロの顔を覗き込んだ。

「宇宙へ行く気になったのか?」
「『行かない』と、返事した筈だ」
「では何故、リック・ディアスの整備を君がしている?」
「ハヤトにリック・ディアスをヒッコリーへ届けるためのパイロットを頼んだんだろ。
 だから俺はその要員ってだけだ」
「私が君のためにリック・ディアスを置いて行くと思ったからではないのか?」
「『置いていかない』と、貴方は言っただろ。俺は届けるだけだよ」

クワトロが何度問いかけても、アムロはモニターだけを見つめて淡々と答える。
その態度が気に入らなくて、クワトロはイラついた気分になってきた。
アムロが突然手を止めてクワトロの方に顔を向けると、肩を竦めて寂しそうに笑った。

「いきなり戦闘になっても困るからな。俺は下準備をしてるだけだ。
 何だよ、そんなに心配そうに見てなくても大丈夫だよ。
 MSを乗り逃げしようなんて事しないからさ」
「いや、別にそんなつもりでいるのでは・・」

バツが悪そうに言葉を濁したクワトロは、話題を変えようとして自分から顔を逸らした。

「・・カツ君を宇宙に連れて行こうと思う」
「ああ、それもハヤトから聞いた。俺も賛成だよ。
 少し気負い過ぎているのが気になるけど、宇宙に上がれば大丈夫だろう。
 それに、貴方とブライトさんが導いてくれるだろう?」
「もちろん、そのつもりだ」

優しい頬笑みを浮かべるアムロを見て、クワトロはハッキリとそう答えたが、心の奥底には未だ燻ぶる思いが残っている。


  やはり君は宇宙へは上がらないのか?
  共に戦わないのか?
  私の・・・私の傍に居てくれないのか?


たった今も否定された誘いの言葉を、もう一度言う事は出来ないのだと諦める。
アムロに気付かれない様に息を吐き出して気持ちを切り替えようとしていたら、彼が声を掛けた。

「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」
「何だ」
「この戦闘データって、貴方の物か?」
「ん?・・ああ、そうだな。これならテスト飛行中の時だ」
「ふぅん・・・最近の物じゃないのか・・」
「百式にならあるぞ。見てみるかね?」
「いいのか!」

ぱぁっと明るくなるアムロの顔に快くしたクワトロはそのまま誘ってみる。

「どうせならコピーしたまえ。役に立つか分からないがね」
「シュミレートするならデータはいくらあっても無駄にはならないよ。
 貴方のデータなら尚更さ」

アムロの嬉しそうな笑い顔に、クワトロの胸が僅かに踊った。

「礼ならキス一つでかまわないぞ」
「こんな時にそんな冗談はいらん」
「冗談を言ってるつもりはないのだよ」
「ああっもぅ煩いなぁ。そんな話はいいから、先に行っててくれよ。
 こっちをコピーしたら百式に向かうからさ」
「フフフ、分かったよ」

急いで作業を進めるアムロを見ていると、
クワトロの中にあった焦燥感にも似た苛立つ心は霧散していた。



 * * *



ノーマルスーツに着替えたカツとクワトロはモビルスーツデッキへと移動してきた。

「私のモビルスーツに乗って降下するか?」
「はい」

ちょっと緊張した面持ちで大きく返事をするカツ。
デッキ上部から下を覗くと、アムロがリック・ディアスの足元に居た。
その姿を見たカツはにこりと笑った。

「僕、ヒッコリーまではアムロさんのリック・ディアスに乗ります」
「ん、いいだろう」
「ありがとうございます」

アムロの元に駈け出すカツの背を見送り、クワトロは知らず口元が緩んでいた。


  今回は君に会えただけでも収穫があったのだ。
  欲張って、事を急いては全てが無駄になる。
  次に会う時はいい返事が貰えるように、私も精進しなくてはならないな。


クワトロはしっかりとした歩みで百式に向かった。



終  2011/04/19
作品名:踏み出す 作家名:でびーな