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ぐらにる 流れ デート

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「それは重畳。では、エスコートさせていただこう。」
 ぎゅっとニールの手を握り、グラハムはアライバルロビーを歩き出す。念入りに練ったデートプランを姫が楽しんでくれるといい、と、そればかり考えていた。

 最初に到着した場所に、ニールは、しばし唖然とした。そこは、子供が喜ぶ場所で、あまり大人、それも男同士で来るような場所ではなかったからだ。
「私は、今まで、こういう場所とは縁がなくてね、姫。知っての通り、私は孤児院で育ったので、こういう遊興施設には行く余裕はなかったのだよ。」
 軍人になるために士官学校へ、そのまま進んだから、そこからも訓練と勉強に明け暮れて、わざわざ来ることもなかった。年末や夏の休暇も帰る場所がなかったから、軍の宿舎で過ごしていた。だから、こういうところに来てみたかったのだと、グラハムは続けた。
「で、動物園? 」
「そうだ。」
 サファリパークというような大きなものではなく、こじんまりとした動物園を選んだのは、場所が一番、空港から近かったからだ。
「もしかして、遊園地も水族館も行ったことがないのか? 」
「はははは・・・そういうことになる。実際に生きている動物とは無縁だったので、大変興味深い。一緒に行ってくれるか? 姫。」
「・・・ああ・・・」
 ニールにしても、こんなところへ来るのは十数年ぶりだ。昔、まだ家族が揃っていた頃、家族で行って以来だ。ゆっくりと、エントランスを入ると、パンフレットを貰った。順路がいくつかあって、二時間コースあたりをチョイスする。まずは、鳥のエリアだ。そこには、たくさんの孔雀が放し飼いになっていた。風切羽を切られているのか、園内からは出られないらしい。とことこと歩いている孔雀は、人に怯えないのか逃げることもない。本日は、ウィークデーで、人影もまばらだ。じっと、グラハムは、目の前の孔雀を眺めている。これすらも珍しいといえば、珍しいか、と、ニールは、パンフで順路を確認している。
「姫、孔雀色というのは美しいと思っていたが・・・」
「ああ、昔は帽子の飾りなんかにもされてたらしいな。」
 そして、くるりとグラハムはニールに振り返って、今度は、ニールの顔を凝視する。なッ何事だよ、と、目を背けたら笑われた。
「きみのピーコックブルーの瞳のほうが、本物の孔雀よりも数万倍は美しい。姫は、なんと美しいのだろう。」
「なっっ。」
「きみの恋人を拝命できた私は、まさに果報者だ。この瞳に、私だけを映す事が出来る。」
 毎度のことながら、この大袈裟な台詞が、非常に恥ずかしい。人がいなくてよかった、と、ニールは、がくりと肩を落として、グラハムを無視して歩き出す。
「姫、そう恥ずかしがらなくてもよいだろうに。」
 すぐに追い着いてきたグラハムは笑っている。
「うるせー、いつでもどこでも恥ずかしい台詞を吐くな。ほら、その先で、フラミンゴショーがあるぜ。時間は、もうすぐ開演だ。」
「よし、急ごう。」
 気を反らせたら、グラハムはスタスタと早歩きを始めた。なんていうか、やんちゃ小僧を連れている気分だ。
 フラミンゴショーは、それほど大きなショーではなかったが、桃色の足の長い鳥が、集団で動く姿は圧巻だった。ふわっと飛び立つ鳥もいて、その優雅に飛行する姿も集団となると綺麗なものだ。
「姫、ほら、あっちに行ったぞ。」
「また戻って来るって。」
「なんと美しいのだ。あの鳥を姫にプレゼントしたくなった。」
「いや、飼えねぇーから。気持ちだけでいい。」
 生き物は無理、と、ニールが手を振ると、残念そうにグラハムも頷く。どちらも一箇所に留まっているような仕事ではないし、下手をすると宇宙に何ヶ月も行くことにもなる。そんな人間に、生き物は飼えない。
「あいかわらずか? 」
「まあな。あんたもだろ? 」
「そうだな。」
 ショーが終ると、フラミンゴは水辺で毛づくろいを始めている。たくさんのフラミンゴは、となりのフラミンゴと嘴で挨拶しているように、こつんと合わせている。周囲にちらほらとあった人影もなくなっていた。次は、と、ニールが歩き出そうとして、肘を取られた。そして、背後から抱き締められる。
「・・・おい。」
 公共の場で、と、叱ろうとしたら、肩にグラハムの額が乗せられた。
「・・・・姫と結婚して、茨の城に閉じ込めてしまいたい。」
「それは無理だ。」
「なぜ、私のプロポーズを、悉く撥ねつけるのだろう、我が姫は。」
 そんなものは、無理な相談だ。グラハムは気付いていないが、ニールはグラハムと敵対する組織の人間で、それも直接戦うマイスターだ。そんなのが一緒に暮らせるわけがない。
「俺には、俺がやりたいことがある。あんただって、そうだろう。だから、それは、もう言いっこなしにしてくれ。何度、プロポーズされても、俺は受けない。しつこくするなら、もう来ない。」
 本来は、かなり危険なことをしているので、組織にバレたら、確実に、ニールもグラハムも消されるだろう。それぐらいの危険を犯しても逢いに来るニールには、これが精一杯の気持ちの表現だ。これ以上に望まれたら、逢えなくなる。
「それは困る。」
「なら言うな。・・・・ほら、一周するんだろ? 」
 肩に置かれた金髪の頭をぽんぽんと叩くと、そこから持ち上がる。すでに、気分は切り替えたらしい。
「アフリカゾウは外せないぞ、姫。それから、ライオンだ。私は、その大きさが認識できていないんだ。」
「どっちもでけぇーよ。」
 それから、ふたりして動物園を一周した。二時間コースは、健脚なふたりにかかれば、一時間ほどになった。エントランス近くの野鳥の檻の前で、飲み物を口にした。
「なんか新鮮だな? こういうのも。」
「私は感動したぞ。みな、生きている。」
「当たり前だ。・・・・グラハム、もしかして、本日のデートコースは、ずっと行きたかったシリーズなのか? 」
 午前中に空港に降りたが、移動したり動物園を見学したり、で、そろそろ昼時だ。怒涛のように、こういう健全コースなら食事は予定されていないかもしれない。なんせ、猪突猛進な男なのだ。目的のためには、他は無視する。道理すら放り投げて突進するから、ニールは捕まってしまったのだから。
「いいや、少し走ったところにあるレストランを予約した。それから、その近くの市場で、おいしいじゃがいもを仕入れようと思うんだが、どうだろう? 」
「マッシュポテトが、今夜のメインか? 」
「メインは姫だが? 家に戻ったら帰る日まで外へは出さない。覚悟しておいてくれ。」
 真面目な顔で、グラハムが本日の予定を告げるので、ニールのほうは吹き出した。まあ、いいのだ。そのために、ここに来ている。この男に抱かれて気持ち良く眠るためだから、軟禁されてもかまわない。いつもは、それだけで終る休暇に、この男は少し違う味付けをしてくれた。それもまた楽しい。
「ケーキ焼いてやろうか? 」
「できるのか? 」
「小難しいのは無理だけど、簡単なのならな。それから欲しいものは? 」
 この男の誕生日は明日だ。たまには、何かしら贈り物を一緒に探してプレゼントしてやってもいいと思ったが、意外なことを望まれた。
「昨年と同じものを所望する。全てが愛でできたクッキーだ。」
作品名:ぐらにる 流れ デート 作家名:篠義