ぐらにる 流れ デート
うっとりと胸を弄ってくる手は、とても熱い。どちらも興奮しているから、その熱が感じられないほどだ。ゆっくりと這わされる手が、まどろっこしくて、ニールのほうが先に仕掛けた。グラハム自身を握って、上下に動かす。すると、相手も、同じように攻めてくる。
・・・・ああ、よく眠れそうだ・・・・
うっすらと笑って、ニールはグラハムの片手を取り、自分の後ろに回す。ここでは、どんなに乱れてもいい。ただ眠るために、ここに来るのだから、ニールは欲しいままに身体を開いていく。
翌日は、午後近くに目を覚まして、とりあえずブランチの用意をした。それから、ケーキとクッキーを作る。男ふたりで、何してんだか、と、ニールは呆れるが、グラハムは楽しそうだ。そのグラハムの顔には、見事な引っかき傷ができている。やはり、指輪が掠ったらしい。
「それ、大丈夫か? 」
「もう痛くも痒くもない。さて、姫、私くしにご命令を。」
じゃらりと取り出したアルファベットの文字を、まず食卓に置いた。じゃらじゃらと二十六文字が広がる。
「そこから必要な文字を取り出して、この生地の型抜きしてくれ。前回みたいな凝ったことはできないが、チョコとノーマルの生地を用意した。」
「なるほど、こうやってできているのか。あいわかった。」
そちらは、グラハムに任せて、ニールのほうはケーキの準備だ。大きなものではないが、それでも手間は一緒だ。分量を量って、粉を揮い、バターや砂糖とざっくりと混ぜ合わせる。ついでに、食事の準備もしておく。明日なんて、そんなに丁寧なことをやっているより、昨夜のような騒ぎになるだろうから、その分も作り置きするつもりだ。
「それは? 」
「アイリッシュシチュー。多めに作るから、余ったら冷凍してくれ。それと、マッシュもな。」
「きみの故郷の料理か。それは嬉しい。姫、残りの生地は、どうするのかね?」
「もう一度、捏ねて麺棒で引き伸ばして、同じように型抜きしてくれ。」
午後一杯を、そうやって、ママゴトのような作業に費やした。ケーキは、基本のショートケーキ。イチゴを間にも挟んだ生クリームたっぷりの小さなホール。甘さは控えめにしてある。クッキーも、白と黒の二色の四文字が焼き上がった。
「こういうのも達成感があるものだ。」
「あんたにしては、よくやった。」
山のようにできたクッキーは冷まして、用意していたガラスの瓶に収めた。これなら湿気ることもないだろう。どうせなら、おいしいままで長く食べて欲しくて、市場で、この容器を探したのだ。
四日目の朝に、とうとう休暇の終わりが来た。指輪は外されて、寝室のサイドテーブルにある小さな箱に収めた。
「用意はできたかい? 姫 」
「ああ、何も持ってないからな。」
元々、ニールは荷物はなかった。何度も着ているうちに、グラハムが用意したニールの衣類が増えたためだ。ここでは、そちらの服を着ている。手袋もしないし、危険なものは何一つ持ち込んでいない。
「また、私は独りだ。」
「俺も独りだってーのっっ。いっいいだろ? クッキーがあるんだから。」
「まあ、そうなんだが・・・それでも逢瀬が三日というのは物足りない。」
「これ以上は無理。次回をお楽しみに。」
空港まで、グラハムは送り、デパーチャーゲートの前で別れた。結局、ニールは、言葉にはしなかったことがあった。税関を抜けてから、搭乗口に向かう時に、携帯端末を取り出した。ここで捨ててくるように言われている。
取り出して、登録されたアドレスを呼び出す。タイトルは、「ニール」。そして、本文には、「愛してる。」 と、打ち込むと送信した。無事に届いたら、すぐに、べしっと携帯端末を二つに割って、ダストシュートへ投げ込んだ。
これが、ニールからグラハムに毎年、贈る大切な誕生日の贈り物。
作品名:ぐらにる 流れ デート 作家名:篠義