壊せないなら、
「おいコラ。」
寒空の下何やってんだ、と菊丸は屋上の1番上、つまり給水タンクの頂上に座っている人物に半ば呆れたように問い掛けた。問い掛けられた方は相変わらず背を向けたまま無反応だった。
「午前の授業全部サボって何してんの。」
普段優等生の不二が一日中サボりなんて異常事態だった。理由は簡単なもの。昨日手塚と不二が別れたから。
ならいっそ学校ごと休めよ、と思った菊丸だが言わなかった。
「…僕は、自分で思ってたより手塚に執着してる。」
「じゃあ何であんなにあっさり別れるのオッケーしたんだよ。」
不二はゆっくり首だけ捻り、
「好きだからに決まってるでしょ。」と言った。
そこにいつもの微笑みは無く、瞳は静かに開かれていた。笑っていない不二など泣いているのと同じだと思った。
「ねぇ英二、…慰めてくれないの?君の親友がフられたのに。」
歪んだ笑みを浮かべ不二は体を菊丸に向ける。
「うるさい」
「へえ、僕の事好きなくせに。」
手塚と付き合ってた時はあんなに邪魔してきたのにね。怖じけづいたの?あ、実は人のモノじゃないと燃えないタイプかな。なるほど、じゃあもう捨てられた僕には興味無いんだ。
菊丸にとってはそれらは全て不二の虚勢にしか聞こえなくて心が軋んだ。
「もうなんでもいいよ。……あの人じゃないなら…っ」
壊れてしまう。きっと、不二の心が壊れてしまう。
菊丸は不二を抱き締めた。ありったけの力を込めて。
「あいつの事なんかで泣いてんな。」
「…泣いてなんかないよ。てゆうか泣いてるの英二だし。」
「うっせー」と、盛大に鼻をすすった。
菊丸の肩に顔を埋めていた不二が微かに笑ったのがわかった。
「――寒い、中入るか。」
「…うん。」
「英二。」
「あー?」
「――なんでもない。」
5限の予鈴が鳴った。
(壊せないのなら、)
(傷1つ付かぬよう)
(守り抜くまでだ。)
-END-