あつのなつさのせい
カズマサは目を閉じて、ベッドに寝転がっている。ときどきあちぃ、と唸って寝返りを打つ。会話のネタも尽きたし自然の脅威から逃れるため必死で船を漕いでいるようだ。今、カズマサの心の中では俺の存在など一ミリメートルにも満たないのだろう。俺がなにも言わずいま帰ろうが、晩飯まで居座ろうが、構わないに違いない。俺んち来いよ、たまには話でもしようぜと誘ったのは自分のくせに。
カズマサが何度めかの寝返りを打った。Tシャツが捲り上がって、露になった背中に汗が這う。
心臓の音が聞こえた。
気づけば怒鳴っていた。人を呼びつけといてなんだその態度。ていうかお前ホント腹立つよ、偉そうだし腹黒いしひねくれてるし他人をすぐバカにするしズル賢しいし。なんなんだよ。なに考えてんだよお前。
カズマサが上半身を起こした。目を丸くしてこちらを見つめている。見つめられながら、俺もカズマサと同じ気持ちだった。俺はこんなに自制のない人間だったか? 急に友達を怒鳴ったりするような。だが頭がぼんやりして、一体自分が今までどんな人間だったのか思い出せなかった。考えられなかった。
沈黙。やがてカズマサは拗ねた子どものようにぞんざいに勝手にしろよ、と言い棄てると、仰向けに寝転がった。目は再び閉じられ、首筋には新たな汗の粒が這う。部屋に熱気が充満しようとしているのを感じた。分かった。俺は返事をして、ベッドの脇まで歩み寄り、ふて寝しようとする友人の唇に自分の唇を寄せた。
蝉がジイジイと鳴いている。夏だ。なにもかも、夏の暑さのせいだ。