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こらぼでほすと 八はぴば

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一連の子猫来訪騒動が一段落して、どっかの神仙界関係者が来訪なさる前に、やでやで骨休めと、悟浄は考えていたのだが、ついでに、カレンダーをみて、ふむ、と気付いた。ついでに、これも組み合わせとこうか、と、予定に組み込んだ。

 てなわけで、九月の特区の連休なるものに温泉旅行の予約を取った。とはいうものの、連休真っ只中ではなく、ハッピーマンデーと呼ばれる祝日から、平日を二日間、祝日を挟んでもう一日平日という内容。店のほうも、ちょうど、この連休は飛びやらなんやらで、ややこしいから、一週間丸っと休みにしておいたから問題はない。

「剛毅っていうか、なんていうかですけどねー。」

 月曜日の午後からの飛行機で、女房は長期休みに苦笑する。普通のホストクラブなら、確実に潰れているだろう状況だ。

「いいんじゃないか? いろいろと子猫ちゃんが入れ替わりしてたしな。さらに、本山のヤツらが来るんだ。身体と神経を休めとかなきゃ死んじまうぜ。」

 この後、鬼畜坊主の上司連中が、下界というか特区へ降りてくる予定だ。一応、視察名目だが、まあ、いろいろとお付き合いはしなきゃならないだろう。特に俺とうちの女房は。

 そういう意味もあって五日間の温泉旅行でリフレッシュすることにしたのだ。どうせ、こき使われるのだから、これぐらいの休みは必要だ。

「でも、よくこんな混雑する休みに予約が取れましたね? 」

「意外と空いてたんだよ。休日から平日への連泊だからじゃないか? それに、オフシーズンらしい。」

「あーそうか、紅葉するには、まだ早いですしねー。温泉って、やっぱり冬がメインでしょうしね。」

「いいんじゃね? 温泉でのんびりして家事から解放されるなら、シーズンは、この際、目を瞑ってさ。」

 普段、家事は分担制でやっているが、八割方は、女房の担当だ。だから、こういう時に、何もしないで、のんびりするのが望ましい。いや、他にもいろいろとあって、うちの女房には休んで頂きたいんだけどな。





 飛行機から、ちょっとレトロな雰囲気の列車に乗り次いで、さらにタクシーで、ようやく辿り着いたのは、かなりだだっ広い敷地面積のある旅館だ。ここの売りは、客室が一棟ずつの移築された古民家だが、内装はモダンなもので、プライベートが守られるってとこにある。

「へぇー奮発しましねー。」

「たまにはな。メシも運んでくれるし、引き篭もりもできるぞ? 」

 部屋へ案内されて、ふたりして中を探索する。寝室、居間、控えの間それに露天風呂と内風呂がついている。露天風呂の周囲は、竹林になっていて覗かれる心配もないし、となりの客室までは、かなりの距離がある。

「寝室は、ベッドなんですね。」

「和室より、こっちのほうが楽だろ? 」

 客室ごとに趣向を凝らしているので、いろいろなタイプがあった。まあ、うちの生活形態からすると、洋風のほうが慣れているから、そちらにした。和風のほうには、特区古来の囲炉裏があるタイプもあった。

 広い窓から周囲の景色が見渡せるソファで、一息入れる。すっかりと、宵闇に支配されていて、周囲は真っ暗だ。なんだかんだで、時間を取られているから、すでに夕食の時間だ。

「部屋まで運んでくれるから、先に一ッ風呂浴びるか? 八戒。」

「そうですねーそのほうが気持ち良いですね。まだ、時間あるんですか? 」

 夕食の時間までに、ざっと汗を流すぐらいの時間はある。ここは、食事も売りになっているので、古女房も喜ぶだろう。

「ございますよ、女王様。風呂でいちゃいちゃする時間ぐらいまでは。」

「いちゃいちゃ? したいんですか? 」

「できれば、メシ食って、もう一回、風呂入る時に本格的ないちゃいちゃはしたいけど、それなりのはしたいです。」

「じゃあ、さっさと入りましょう。浴衣は、クローゼットでしたね。」

 いちゃいちゃの部分は、スルーして古女房は、寝室から浴衣を運んできた。長年連れ添っているので、いちいち反応してれなくなったのは、ちとさみしい。



ぽちゃり



 少し涼しい温度で、低い温度の露天風呂は気持ち良かった。ざぁーっと通り過ぎる風が、竹林を揺らし、竹の香りを運んでくる。それが、温泉独特の匂いと絡んで、なかなか旅の情緒になっている。ふたりで入るには、ちょうど良い大きさで、並んで、竹林の上の空を眺める。風が強いから、空は晴れていて、星空がよく見えた。

「都会と違って、星が多い。」

「こういうのが、温泉の風情だよな。さすが、トダカさん。いいとこ知ってるなあ。」

「なんだ、トダカさんの推奨ですか。」

 店のバーテンダーが、ゴールデンウィークに、ここへ泊まりに来て、よかったというから、俺たちも、ここに来る気になった。そして、この人気の温泉宿の予約は、いろいろとコネのあるトダカがしてくれたのだ。せっかくなら、ゆっくりできるところへ、ということだった。

「ここ、オーヴの某セレブさんが年間契約してんだってさ。だから、必ず、部屋が空いてるんで、トダカさんが借りてくれた。ただし、払いは自腹。」

「当たり前でしょう。おごりだったら、怖くて泊まれません。」

「想像してたよりいいとこだぜ。これなら、確かにゆっくりできる。」

 客室が隣接していないから、人と顔を合わせることが少ないし、何もしないでダラダラしていることもできる。それに、ここだと五月蝿いのもいない。どっかのサルとかどっかの大明神様とか、そういうのだ。

 となりに座っているのの顎を持ち上げて顔を向けさせて、チュッと唇に軽いキスをする。

「逆上せますよ? 悟浄。」

「そこまではしないよ。もうちょっといい? 」

「もうちょっとですよ? 僕は、おいしい食事もいただきたいですから。」

「承りました、イノブタ女王様。」

 軽く軽く触れるか触れないかくらいに、古女房の耳に唇を這わせ、身体ごと、こちらを向かせた。瞼に、頬に、額に、鼻に、チュッチュッと、キスをする。いい感じに、身体が蕩けてきたな、と、思った瞬間に、後頭部を持たれて抱き寄せられた。

 チューーッッ

 それほど深くないが、唇を割って舌先が歯列をなぞるキスを古女房に仕掛けられた。しばらく、上唇と下唇を、啄ばむように噛まれて、こちらの体温も上がる。本気で仕掛けようとしたら、古女房は立ち上がり、「そろそろ、ごはんですよ? 」 と、湯から逃げて行った。

 ちっっ、やり逃げか? 覚えとけよ、八戒め

そう思いつつ、こちらも気を鎮めるために、また空を見上げることにした。ちょーっと動けない状態だったので。まあ、このリベンジは、これからの四日間で、たっぷりとすることにしよう。今夜の日付け変更線を越える頃に、とりあえず、お祝いは言葉にするけど、きっと、うちの女房の耳には届かないんだろーなーと考えて笑った。


作品名:こらぼでほすと 八はぴば 作家名:篠義