言わせんな、恥ずかしい!
俺と音無は、まぁ、所謂そういう仲な訳だが。音無は俺に言った、「俺にはお前が必要だ。」そりゃあまぁ記憶も無くこんな世界にポイと放り込まれ、出会う女は銃器を構えていたり手から刃物を生やしたり?変わり者の集まりであるこの戦線で俺は唯一と言っていい常識人だし頼れる兄貴的存在だし?まぁお前が真っ先に俺に縋りたくなるのも納得っていうか?「お前、照れ隠しへったくそだなぁ」うるせー!
まぁ、さっきのは置いとくとしていくら記憶が無いって言っても、周りの女がそこいら
の男より余程強そうだとしてもだ、わざわざ俺みたいな健康的かつ一般的な男児にだな?死んでるから健康も何もないとかそんな事は言っちゃあいけねー、いけねーよ。「そもそも何、俺ら付き合ってるんじゃねーの。」まぁ、冒頭にも言ったが、そういうことだ。この記憶無男さんはくそ真面目な顔して俺に好きだの何だのと、最初こそ馬鹿言ってんじゃねーよと諭したものだけど、なかなかこの男は頑固で、嫌なのか嫌じゃないのかどちらなのかとその一点張りである。YESかNOかを迫られ、NOと返せばじゃあどうしたらYESになるんだと続く。とんだ負け戦、出来レースなのだ。振りきって逃げ切ることも出来た、出来たのだけど、「あんまり俺ばっかり一方通行だと流石に傷付くんだけど。」なんだ、あれだ、言わせんな恥ずかしい!ってやつ。何がとかどこがとか、うまく言えねーけど。あんな熱心に好きだ好きだ言われちゃ悪い気はしねーっていうか、無気力そうに見えて実は根っこが熱いとことか、しっかりしてそうに見えて実は結構ぼけっとしてるとこだったり、見てらんねーってとこ、どっかあいつに似てたのかしれないなって今になって思うけど。きっとそれを言ったら機嫌が悪くなるのはわかっているから、しかし、それにしても、「付き合おうって、言って、今までそれなりに恋人やってきたつもりなんだけど。キスは駄目ってどんな乙女だよ。」駄目とは言ってねーよ!ただ、そういうのはもっとこう、良い雰囲気になって自然にするもんじゃねーかなと思うわけだ、こうも改まって「日向、キスしたい。」だなんて言われてハイそうですかどうぞどうぞとキス待ち顔差し出せますかってんだ。俺が音無のその言葉にいやいやいやと首を振ってもう数十分。最初こそそれなりに緊張していたらしいそいつも今や完全に呆れ顔でこの問答に飽きてきている、というか、拗ねている、というか。確かに、そういう仲の相手からのキスがしたいという言葉に全力で首を振り後ずさってしまったのは、悪い事をしたかなという気も、しないでもない、ない。始まりが始まりであった事から常々こちらの気持ちに疑いを持っているようだし、今回の事で止めを刺してしまった感が否めない。そしてその仏頂面に先程とは違う焦りを感じ始めているのも確かなのだ、別にお前を不安にさせたい訳じゃない、俺だってこういう日が来るというのは想定してたし、正直、その後も、想定している、けれど。俺の予定では、お前が有無を言わさず持っていくものだと思っていたものだから、まさかご丁寧にお伺いを立てられるとは思わなんだ、だから調子が狂う!ああもういいからいっそ早く奪ってくれればいいのに!
作品名:言わせんな、恥ずかしい! 作家名:きいち