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【スパコミ新刊】うつくしきけだもの【デュラ静帝】

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(思うのは、いつだって、いつだって、ない物ねだり)
(思うのは、いつだって、いつだって、ない物ねがい)

(ああ、あのけだものが 欲しい と、)


平和島静雄は瞬きを零し、遠くを歩いていた竜ヶ峰帝人を見据えた。携帯の画面を見つめながらも、隣を歩くはしゃいだ様な声に緩慢な相槌を打っていた帝人は、帝人の曖昧な相槌に対して極端に絶望したような声を上げた隣の少年へちらりと視線を押しやり、くすくすと笑いながらようやく携帯をしまう。少年は帝人の仕草に反応して、男子高校生にしてはどこか耳に残る高い声でつらつらと帝人に向かって声を上げるが、帝人はその声を全て聞きいれたあとで、にっこりと笑いながら首を傾げ、小さく唇を動かした。少年は呼吸するように浮かべていた笑顔を固まらせ、帝人をじっとりとした視線で見つめる。静雄はからかう様に目を細めている帝人の様子を見つめながら、ぶかりと煙草の煙を吐いた。帝人の方は少年と会話するのに夢中で静雄に気づく様子もない。
(まあ、そんなもんだよな)
静雄はぷかり、再び煙草の煙を吐きながら、瞬きを落とし、未だ長い煙草の火を消した。やんわりと心に満ちていく感情は躊躇いでも悲しみでもない、諦観のようでいて諦めでもない、単なる事実を見つめる納得のみであり、静雄はゆっくりと目を細め 瞬きを行って、刻一刻と変わり続ける空を見上げた。青々と済み渡っていたはずのそこは、赤色が不規則に混じり、紫がかった深い紺色を拡散させつづけている。太陽がビルの間に沈む、その周辺のみ未だ明るく淡い橙色に色づいている空は、まるで様々な色を思うままぶちまけてしまったかのようでもあり、しっかりと計算されつくしたグラデーションのようにも思われる。静雄は暫く空を見上げていたが、やがて目を伏せ、池袋の雑踏の中へ一歩足を踏み入れた。生まれてからずっと、池袋という街の中で生活していた静雄は、この街の混沌さを、清浄さを、醜さを、誰にも知られないまま愛していた。何よりもこの街は普通であると思われているものとそうと思われてはいないものの境目が非常に曖昧で不鮮明なのである。静雄が、常人離れした力をその体に宿しているとしても、ある意味では存在について無関心でいてくれる。諦めた心には無関心が最も心地よいと知ったのはいつのことだったか。雑踏の中でも足を進ませながら、静雄はふと昔の思い出を紐ときながら首を傾げる。

池袋の街中に向けて足を進めていく静雄の背中を、男子高校生の片割れは、じ、と見つめていた。平平凡凡な彼の瞳は、どこか危うい青をたたえた色のまま、歩いていく静雄を見つめている。静雄の姿がすっかり街の景色の一つとなってしまってから、ようやく隣にいる正臣の呼びかけに答えて帝人は瞬きを行った。不思議そうに何を見つけたのか問いかけてくる正臣へ、帝人が浮かべるのはあくまでも無害な笑みである。正臣はぷくりと頬を膨らませながらも、それ以上の追及は止めて再び多様な言葉の引き出しの中から話題を取り出して帝人に示してみせる。帝人はにこりと笑い、的確がすぎて冷たいものとなってしまっている突っ込みを入れながら、まるで普通に微笑んだ。

(それは自分が想像し得ないほどに 言ってしまえば別世界のものであったのだから!)

愛している、そう言い続ける夢を見る。あどけない顔立ちをしている彼が目を丸め、やがてその驚きの表情が緩々とほころんでいき、笑顔となるその瞬間を思い描く。はにかんだように目を細めながら首を傾げる彼の仕草を見つめていた自分は、確かにしあわせであった。唇が開く、自分に返事を帰すために。
愛している、そう言い続ける夢を見る。いつか届くまで。返事が、帰ってくるまで。


柔らかな感触を感じて、静雄は瞬きを行いゆっくりと首を捻った。静雄の足をしっかと抑えている少女は、あどけないばかりの笑顔を浮かべる。
「静雄お兄ちゃん、こんにちは!」
「…茜か、吃驚した」
ごめんなさい、少女はにこにこと明るく笑みを浮かべながら、まるで世の中の明るく楽しいことしか分かっていないと言った表情で静雄を見上げている。実際はそんな夢見がちなことは一切起こっておらず、少女は寧ろその反対側のような負の感情に絡め取られ危うく周りの大人たちが気づく前に完膚なきまでに壊されてしまうところであったのだけれども、それすら池袋は他愛ないこととして呑みこみ、少女自身も感じることなく最悪の事態は今のところ免れていた。静雄は自分が知る限り、少女に不安定なことが起こっていないことに安堵の息をつきながら、少女の頭を撫でる。
「元気か?」
「うん、元気!静雄お兄ちゃんは元気?」
私に殺されるまで、元気じゃないといや。茜の、思わず聞き返してしまうほどの言葉の意味と笑顔のギャップに、思わず通行人が一瞬青年と少女を見つめかけ、青年に気づいた瞬間足早に過ぎ去っていく。静雄は周りの動揺を悟ることもないまま、こら、と茜の頭を撫でていた手を止めた。
「そういういい方は、よくねぇぞ」
「じゃあ、今度から気を付けるね」
茜は静雄の呆れたような声に、にっこりと笑いながら答える。気を付けて婉曲的な表現をすればいい問題なのだろうかと内心首を傾げながらも、静雄は茜のこの発言にも大した脅威を感じることは出来ず、そうだな、と頷いて終わらせてしまった。茜は華がほころぶように笑い、うん、と頷いた。静雄は頭を撫でつづけながら、茜が そういえば と目を丸めたことに首を捻る。
「静雄お兄ちゃん、何か楽しいことでもあったの?」
「…あ?」
きょとん、茜の言葉に目を丸めた静雄へ、茜はくすくすと実に少女らしい秘めた笑みを浮かべて首を傾げた。だって、潜められた言葉に瞬きを落とした静雄は、続ける茜の言葉に目を丸めた。茜は自分の言葉がどれほど静雄に衝撃を与えたのか分かっていない様子で、あ、と慌てた声を上げた。
「私、もう行かなきゃ。静雄お兄ちゃん、またね!」