はるのゆめをしばらくみない
「星の輝きは見てても飽きない、ハルヒと一緒だ」
「聞いてる?ハル、」
この男は何がしたいのだろうか。ただただ広いとも言えるこの空間に甘く作った声が響き渡る。(どうせお前はハルヒと話す時にその声を作れないくせに)
「俺は”ハルヒ”じゃない」
ひらりと手を上げ背を向けるが明るい模造の星空からの暗闇には目が慣れない。もう一度向きなおすと彼も俺に背を向けていた。こいつは本当に手のかかる奴だ。
「だって…明日急に雨って天気予報…俺の完璧なデートプランが」
「だからこうして貸しきって付き合ってるじゃないか、俺が」
「おお、心の友よ、勿論感謝してるぞ!」
自己顕示をアピールしてもこいつは聞く耳を持たないのかそれに触れないのかそれが意味を持たない。現にこのありさまだ。ふう、とため息をひとつ。同時にありがとうございましたと響くアナウンスはあえて録音されたものにした。こいつに変な緊張感を持たせない為にと俺の配慮だったのだがこちらも意味を持たないようで。
俺の優しさは何時まで経っても空回りな上に伝わらない。
…優しさ、だけか?
室内が明るくなる。星空は瞬時に消えダーク・グレーの壁一色に切り替わる。外は少し小雨がふっているのか、サアアアとノイズのような音が聞こえる。環が伸びをひとつ。
「さあ、帰るか」
俺は傘を差し出す。橘が差しましょうと申し出たが俺はいいと断った。俺は春も星空も環も見ずにこの季節は終わりを告げようとしている。
作品名:はるのゆめをしばらくみない 作家名:灯子