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恋の罠を仕掛けましょう

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「うわあ……」
教卓に積み上げられたノートの山は何度瞬きをしても消えはしない。
帝人が日直になったこの日、運悪く数教科分の課題提出が重なった。もうひとりの日直の男子は体調不良で早退。いつも手伝ってくれる杏里はどうしても外せない用事があって帰ってしまい、正臣も委員会で無理。HRが終わり、進路関係で先生に呼び出され教室に戻ってきたときには、残っている生徒は一人もいなかった。
「これ……何往復すればいいんだろ」
この後の自分の未来を思うとため息しかでない。しかし、いつまでもぼさっとしていてもノートの山は減らない。
一度大きく深呼吸をした帝人は、よしっ、と声を出して気合いを入れ、積み上がった山のひとつに手を伸ばした。

「あれ、竜ヶ峰さん?」

「折原君……?」

持ち上げようとした瞬間、教室の出入口からかけられた声に振り向けば、そこにいたのはクラスメイトの――折原臨也だった。

彼、折原臨也はいろんな意味で有名人だ。眉目秀麗な容姿は人目を引いたし、臨也は隣のクラスのとある生徒――平和島静雄と日々はた迷惑な戦争を繰り広げていた。
帝人も入学当時から彼らのやりとりは幾度となく目撃していたし、二年に進級してからは臨也と同じクラスになったから彼を知らないわけがない。
脳内に浮かぶ臨也の様々な噂に、顔がひきつりそうになりながら、表には出さないよう気を付けて帝人は、必死に作り笑いを浮かべた。
「まだ残ってたんだ」
「先生に呼ばれて…それに日直だったから」
「ああ、そういえば今日提出だっけ」
「折原くんもノートあるなら今から持っていくけど」
「いや、俺の分はいいよ。やってないし」
「いいの?」
「面倒なことはやらないんだ。テストで点さえとっておけば文句は言われないし」
臨也の言葉に、そういえば彼は学年トップだったな、と帝人は思い出した。一年の頃からテストが終わると貼り出される成績優秀者のなかで、臨也の名前が一位以外の場所にあるのを見たことはない。サボリが多かったり――二年になってからは以前より真面目に授業を受けているが――平和島静雄との喧嘩で校内を破壊しているにも関わらず見逃してもらえているのは、全国模試でもトップクラスに食い込むその成績と、先生方の弱味を握っているおかげだ、なんて噂もあるくらいだ。
頭のいい人間は言うことが違うな、と常々平均点を保っている帝人が苦笑していると、臨也がジッとノートを見つめているのに気付いた。
「それ、一人で運ぶの?」
「え、まあ…みんな帰っちゃったし」
「手伝うよ」
「え!?」
臨也の提案に帝人は遠慮なく大きな声をあげ、驚いた。普段の彼を見る限りでは、自分には関係ないと帰ってしまうと思っていた帝人的には予想外すぎた。
「いっぱいあるけどいいの?」
「女の子一人じゃ大変でしょ」
「でも」
戸惑う帝人を余所に、臨也は帝人が持とうとしていたノートの山を抱えあげ、早く行こう、と出入口で帝人を促す。仕方なく彼に続いて、帝人をノートに手をかけた。

臨也のおかげで、職員室との往復回数は帝人が予想していた半分で済んだ。
「今日はありがとう。折原君のおかげで助かったよ」
全てのノートを運んで教室へ戻る道すがら、まだお礼を行っていなかったと、帝人は斜め前を歩く臨也の背中に声をかけた。
やはり男女の力の差は大きいのか、臨也は細身にも関わらず、帝人がよろけながら運ぶ量を楽々と持っていた。教室に向かう途中、帝人の運ぶノートを自分の方に移したりと非力な自分をどこまでも助けてくれて、今日は彼に感謝してもしきれない。
「別に気にしないでいいよ」
「でも、本当に助かったから。何かお礼させてよ。ジュースくらいならおごるから」
その言葉にぴたりと足を止め、臨也は振り返った。ニヤリと笑みを浮かべる臨也の姿に、帝人は何か変なことを言っただろうかと首を傾げた。
「じゃあさ、お礼ってことで明日俺に弁当分けてよ」
「え?」
「俺基本的に購買利用者なんだけど、たまに昼には普通のご飯も食べたいんだよね。竜ヶ峰さんて自分でお弁当作ってるだろ?」
「そうだけど」
一人暮らしの帝人は食費節約のために、お昼はいつも自作の弁当だ。前日の夕飯の残りだったりと、中身はあまり豪華とは言えないが、一緒に食べる杏里や正臣には中々好評の出来映えだった。ちなみに正臣とは毎日のように強制的におかず交換イベントが起きていたりする。
「おかず一品でいいからさ。俺の分も作ってよ。明日貰いにいくから」
「別にそれくらいならいいけど……」
「そう?じゃあ、決まりね」
楽しみにしてる、と笑みを深める臨也に、期待しないでねと帝人も笑顔を返す。
「あ、あとさ。帝人ちゃん、て呼んでいい?竜ヶ峰さん、て長いし」
「うん、いいよ」
「俺のことも臨也でいいし」
「……臨也君?」
「そう。それでいい」
確認するように名前を呟けば、臨也満足したように頷いた。正臣以外の男子を名前で呼んだことはほとんどないのだが、そのうち慣れるだろうと、帝人は心の中でもう一度彼の名前を繰り返した。

「じゅあ、俺帰るから。また明日、帝人ちゃん」

「さようなら、臨也君」

小走りで廊下の先にある階段を降りていった臨也を見送り、帝人も夕焼けに染まる廊下を歩き始めた。

今日は臨也の意外な一面がいろいろ見れた日だった。猫を被ってるだけかも知れないが、案外彼は優しい人だな、と帝人はさっきの臨也の笑顔を思いだし、頬を緩める。
折角だから、明日はおかずだけじゃなくて、彼の為にも一人前のお弁当を作って
あげようと計画してみる。そんなに手間はかからないし、もしいらないと言われたらそのまま自分の夕飯として持ち帰ればいい。よし、帰りにスーパーに寄って何作るか決めないと。
そこまで考えて、帝人はあれ?と、あることに気付き、教室に向かうため上がっていた階段の途中で足を止めた。
今帝人が教室へ向かっているのは、置きっぱなしになっている鞄を取りに行くためだ。しかし、臨也は教室には行かずそのまま帰ってしまった。思い返せば、臨也は基本的に手ぶらで登校していて、彼が鞄を持っている姿を見たことはあまりない。

「折原君……何しに教室に来たんだろ?」






* * *






可愛いなあ、帝人ちゃん。
教師にお願いして提出日を今日に合わせたり、他のやつらをさっさと教室から追い出したかいがあるな。
真面目な彼女のことだし、きっと俺の分も弁当作ってきてくれる。
名前も呼んでくれたし、一歩前進だよね!

明日が楽しみだなぁ!


【恋の罠を仕掛けましょう】


次はどうやって彼女に近付こうかな!

作品名:恋の罠を仕掛けましょう 作家名:セイカ