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不透明ハート 愛迷ガール 【スパコミサンプル】

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高校生、というのは思春期真っ只中。身体も成長を遂げ、体型は大人のものに近付いていく。精神的にも成長した若者たちは異性に一層興味を持ち、『性』に対しても一番敏感な時期だと言えるだろう。
埼玉で過ごした中学時代、同級生は目を輝かせ恋に夢中になっていたが、残念ながら帝人には縁のないものだった。それは高校に入り、池袋にやってきたいまでも変わらないのだが、人が多いこの池袋、加えて周りは都会の多感な女子高生。教室にいるだけで耳に入ってくるのが、所謂恋バナや……初体験の話。こそこそとクラスメイト達が囁き合う経験談は、結構生々しいもので、帝人自身経験なんてなくても自然と耳年増になっていった。
帝人だって女子高生、そういう話題に興味はある。しかし、一番仲のいい杏里や正臣達にはそんなこと聞く気にはなれなかった。正直そんな話題を振っただけで、自分は憤死する自信がある。
湧き上がる興味や好奇心、それを満たすにはインターネットは便利だった。キーワードを入れて、検索すれば大抵のことはわかる。勿論、セックスなども含めた性的欲求に関する解消法についても。
『快楽』というのは帝人にとって未知のものである。体験してみたい、と好奇心が抑えきれなかったので、思い切って一人エッチなるものをしてはみたのだが……結果的にあまりうまくいかなかった。一応濡れはしたし、不感症ではないと……思いたい。
好きな人ができるまではお預けにしておけばいい、なんて考えも浮かんだが、一度生まれた知りたいという欲求はなかなか抑えきれない。
どうしたものか、と悩んだ帝人が辿り着いたのが……出会い系サイトで初体験の相手を探す、と言う何とも思いきった決断だった。年齢的には早いかもしれないが、それほど珍しい事でもないし、自分自身処女性をとくに重要視していないから問題はない……とかなんとかネットの書きこみを眺めながら帝人は思ったのだった。友人たちが聞けば間違いなく止めようとするだろうが、今ここに彼女を止めれる人間はいなかった。
いくつか無料の携帯サイトを回り、一番安全そうなサイトに登録する。名前はチャットで使っているハンドルネームと同じにしようと思ったが、流石に田中花子は微妙だったから、少し変えて『ハナ』と記入した。
登録以降、幾人からも届く誘いのメールを慎重に選り分け、『何かの勧誘目的じゃない』『怪しくない』『優しそう』などなどいくつかの条件を満たした相手を見つけ出し、メールのやり取りを続けた。

そしてあっという間に話は進み、夏休みが半分ほど過ぎたある日、帝人はメール相手と会うことになった。


清々しい程に晴れた空。相変わらず人通りの多い池袋の街並みを眺めながら、帝人は緊張した面持ちで、待ち合わせ場所にいた。
ふわりと広がる淡いピンクの膝上スカート。黒のキャミソールの上に首元が大きく開いたライム色のTシャツを重ね、その上に半袖のカーディガン。第一印象は大事だ、と帝人なりに精一杯おしゃれして、今か今かと相手が来るのを待っていた。
(ああ、どうしよう。やっぱり緊張する。本当に僕何やってるんだろう。いくら気にしてないからって、ネットで相手を探すなんてやっぱり間違ってるかな。いや、そんなの今更言っても仕方ない。でも……いや、メールでは優しそうな人だったしきっと大丈夫!…………あああ、どうしよう)
決めたのは自分、と思ってもこの土壇場で決意が揺らぐ。今日会ってすぐに性行為に及ぶ、なんてことは流石にないだろうが、今後のことを考えると緊張が増していく。待ち合わせ時間まであと五分。今からでもごめんなさいと謝って帰った方がいいんじゃないか、という考えが浮かんだ時、「帝人ちゃん?」と名前を呼ばれた。
「あ……臨也さん」
「やぁ、帝人ちゃん。こんにちは」
目の前に現れたのは知り合い……折原臨也だった。彼とはダラーズの集会以降、度々会っていた。街で遭遇した時に世間話をしたり、何度か食事を共にしたりと、友人と言うには結構希薄な関係だったが、夜にはチャットで『甘楽』と『田中花子』として交流を続けていたので、それほど臨也を他人行儀に感じることはなかった。
とは言っても、今は非常にタイミングが悪い。あと少しで約束の時間。既に自分の服装や特徴は相手に伝えているので、相手が来た時臨也が一緒にいるのは大変マズイ。こんにちはと笑顔を返しながらも、どうしようと思考を巡らしていた帝人に、臨也もにこりと笑みを浮かべ会話を続ける。
「紀田君たちと待ち合わせかい?」
「いえ……今日はちょっと」
「ふぅん……じゃあ、暇じゃないのかな?よかったらデザートでもおごってあげようと思ったんだけど」
「えっと……ちょっと、人と待ち合わせているので、申し訳ないんですがそのナンパ紛いなお誘いは、その辺のお姉さま方にお願いします」
「そう?残念」
まったく残念そうな表情を見せず、いまだにこにこと帝人の前に立つ臨也を不審に思いつつ、表情に出さないよう気を付けながら、「他に何か御用ですか」と帝人は尋ねてみた。
「うん、ちょっとね」
「あの、知り合いが来るので出来れば臨也さんにはご退場頂きたいんですが」
「ひどいなぁ。もう少し一緒にいてもいいでしょ?」
「僕は用事があるので」
「ねえ、帝人君」
なんとか臨也をこの場から追い払おうとする帝人に、臨也は笑顔を崩さず、どこか楽しげな様子で告げた。

「待ち合わせの相手……もしかして『奈倉』って名前かな?」

臨也の口から出た名前に帝人は目を見開く。その名はまさしく帝人が出会い系サイトで知り合い、これから会う予定の人物の名前……丁寧で、優しそうで、怪しくない『奈倉』の名だった。
「何で、臨也さんが」

「ハジメマシテ、『ハナ』ちゃん。会えて嬉しいよ」

驚く帝人を余所に、臨也はそれはそれは楽しそうに笑みを深め、そう言い放った。



【一部抜粋。以下本編に続く】