勇者と愚者
常に直球。出たとこ勝負。
情け容赦は愚の骨頂。
無論、それが実の弟だったとしても、だ。
穏やかな風を受け、金色の髪がサラサラと音を立てた。
日差しは少しきつく、そろそろ夏に差し掛かろうかという、そんな気候。
塀とも云えない不恰好な石畳の、それの上を歩きながらエドワードは真下を歩く弟を眺め、不意に足を止めた。
急に立ち止まった兄を訝しく思ったアルフォンスは、何事かとエドワードを見上げた。
そんな弟を真正面から見据え、エドワードは改めてアルフォンスと向き合った。
金色の瞳には真摯なまでのいろを宿し、そしてまた何処か切羽詰った様な感も見受けられる。
「俺が、先だ」
腕を組み、きっぱりとそう言い放った言葉に対して返って来たものは、そんな顔も出来んだな、お前。という何処か惚けた感想を抱く程に眉根を寄せた弟の姿だった。
「何言ってんの。幾ら兄さんでもそれは横暴ってもんだろ?僕が先だよ」
そのたった一言で全てを理解した聡いこの弟は、そんな事など意にも介さない、といった風に、頑として言い放った。
依然として頑なな態度を崩さないアルフォンスにやきもきしながらも、ここは兄の威厳を見せなければ、と更に強気の態度を取る。
「大体お前はアイツより年下だろ?生意気なガキなんて、振られるに決まってる」
「歳を気にするなんて、兄さんもまだまだだね。ウィンリィはそんな些細な事を気にする様な子じゃないよ。それに、兄さんよりも落ち着いてる、って僕よく言われるんだけど?」
「…テメ、口ばっか達者でもな、女にモテるとは限んねぇんだぞ!」
「それを云うなら兄さんだって、腕白なだけだなんて嫌悪されるよ?」
埒が、あかない。
どんなに強硬な態度を見せても、この目の前の弟には効かないらしく、さらりと躱されてしまう。
「こんな道のど真ん中で、あんたたち一体何やってんの?!」
囂しい程に膨れ上がった兄弟喧嘩に、割って入ったのは、正に渦中の人物だった。
ウィンリィ、
面白いほど奇麗に、二つの声が重なった。
その事に気分を害したこの二人は、同じたタイミング、同じ速度でそっぽを向いた。
二人の動作を見ながら、ウィンリィは呆れた様な眼差しを向けたが、当の本人達はそれに気付いていない。
兎に角ホラ、こんな所に突っ立ってないで。今日はウチに寄ってくんでしょ?
そう言いながら先を歩いていくウィンリィの後姿を慌てて追い駆け、互いに火花を散らす。
目の前を行く背中から付かず離れず、けれども彼女には聞こえない位の声音でもって、密やかな決闘は続く。
「兎に角、俺が先にアイツに言うんだからな」
「僕が先だって言ってるでしょ?それにウィンリィの好みは背が高い人だって言ってたよ」
「んな!そっ、そんなガセネタ掴ませようなんて、10万年早ェよ!」
「……ウィンリィ本人から聞いたんだけど」
「…男は身長じゃねぇ」
「ふぅん。身長も大事だと思うけど?女の子なんだし、色々理想があるよねえ」
「ほおお、じゃあ、勝負すっか?」
「良いよ。兄さんが振られるに100センズ」
「てっめ、振られるの前提か?!」
「じゃあ『身長を理由に』振られるに200センズ」
「……!!吼え面掻くなよ!?」
「兄さんこそね」
ウィンリィ!
急に呼び止められて余程驚いたのだろう、真夏の青空の様な蒼色が、更に大きく見開かれている。
エドワードは息を大きく吸い込み、き、と相手を睨んだ。
「俺のお嫁さんになってくだ「ごめん、あたし自分より身長の低い子って嫌なの」
斯くして、勝負や如何に。
end.
*勇者と愚者は紙一重。
原作で5歳の頃に告白したという美味しい設定があったので、ちょっと捏造してみました(笑)