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ありがとう、さようなら

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今までありがとう。大好きだったよ。




静雄×臨也  ありがとう、さようなら











別に気にしない。
シズちゃんが誰と会ってても、誰と話していても、誰と・・・キスをしていても。


「・・・・・・・・・っ」


ただの偶然。池袋に仕事の用があってふらりと歩いていただけ。でも、そこで見たのは、金髪でバーテン服にサングラスをしたよく知った男のキスシーンだった。
今、名前も知らない女と触れているそれは、確かに俺を好きだと言った唇で。俺の名前を何度も呼んだそれのはずなのに、どうしてだなんて思いながら、その光景をずっと見ていることが出来ずに必死に俺は池袋の街を走った。
視界に入る街並みは何処も一緒に見た事のある風景で、余計に惨めな気分になった。

「・・・・・・はぁ・・・っ」

走って、走って、たどり着いた自分の家。
そのまま寝室に駆け込んで、ベッドへと潜り込めばふわりと香った匂いに涙があふれた。

「なんで・・・っこんなとこにまでいるんだよ・・・」

確かに此処にいたはずの存在が残した香りすら、今は悲しみの材料にしかならない。
いつかはこんな日が来ると分かっていたはずなのに。それを承知で続けていた関係のはずなのに。どれだけ好きだと言われても、どれだけ好きだと伝えてもいつかは終わりが来ると頭の中で思っていた。
一時の夢だと、ただの気の迷いだと。そう、思っていたはずなのに。溢れてくるそれは止まる事を知らなかった。

「シズちゃんの・・・馬鹿・・・っ」

どうせこんな思いをするのなら、愛さなければ良かった。出会わなければよかった。
たとえ一時でも、満たされた時がなければこんなにも傷として残る事はなかったのかもしれない。それでも、確かにあった時間は幸せだった。
最初に会った時から、その視線を合わせた時から何故か惹かれた。
その感情が愛情なのだと気付いたのは、いつだっただろうか。顔を合わせれば喧嘩をして、追いかけてくる存在から笑いながら逃げた高校時代。今思えば、その存在を視界に捕らえたその時から好きだったのかもしれない。

「俺馬鹿だな」

大丈夫だと思っていた。この日が来たとしても笑って別れを告げることが出来ると思っていたのに、実際にそのときが来たらその場から逃げ出した自分に笑えて来る。
人間って凄い。こんなにも悲しいのに笑えるんだ。そんな事を思いながら未だ香りの残るシーツをぎゅっと抱き締めて必死に耐えた。

どれぐらいの間そうしていただろうか。起き上がって鏡を見れば、酷い有様だった。けれども、泣くだけ泣いたら気分はどこかすっきりしていた。
どんなことがあったとしても、この世界は変わらない。
ただひたすらに時が流れて、誰かが何かを手に入れて、失う。今回はそれが俺だっただけの事。
抱き締めていたシーツは、涙を吸ってしっとりと濡れていた。抱き寄せればまだかすかに香るそれを、全て洗い流すつもりで、忘れるつもりで、ゴミ箱へと捨てた。
いつの間にか当たり前のように存在していた洗面所の歯ブラシも、食器棚のマグカップも、テーブルの上の灰皿も全て処分する。
煙草の匂いが染み付いたカーテンも変えるべきだろうか。寧ろ、マンションごと変えてしまえば、思い出さずにすむだろうか。

思い立ったら即行動だった。
パソコンの電源を入れて、カタカタとサイトを開く。手頃な物件を見つけて即効で契約を決めた。
今のマンションより若干広くなるが、どうせ仕事の資料やら増えるのだから問題ないだろう。すぐに引越しの準備を始めようか、けれどもこのマンションの契約更新はまだ先だ。どうせならその間は物置として使おうか。

ただ、この部屋にいる事だけは耐えられなかった。
思い出が染み付いてしまったこの部屋にいれば、次にシズちゃんに会った時何気ない顔で笑える勇気はない。ただの情報屋と喧嘩人形として振舞えなければ、もう会うことすら出来ない。いや、会わないほうがいいのかもしれない。そうすれば、きっとシズちゃんは幸せになれる。


「シズちゃんは俺の事なんてすぐに忘れそうだね・・・」


手頃な鞄に必要最低限のものだけ入れて、そっと住み慣れた家を後にした。







続く

作品名:ありがとう、さようなら 作家名:蒼夜