・・・届けられた海・・・
離れていても、心が近い二人を書きたかったの
離れてても、ラブラブな二人だと思うから~。
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海の上で吹く風が、季節の移り変わりを教えてくれる。
生ぬるい風を肌に感じながら、元親は煌く波を眺めていた。
「はっ、だいぶん風が湿ってきやがったなぁ」
誰に、言うでもない言葉が風に乗って運ばれる。
近くに居た野郎共が、口々に相槌を打つ。
元親は、その光景に顔を綻ばせて笑った。
この時季の波は、一年の中でも特に美しいと、元親は思う。
冬の暗さもなく、かといって眩し過ぎる夏の強さも無い、だが適度な太陽の日が、柔らかく波を煌かせ、目に心地よい。
この時季になると、自然と海を眺めていることが多いことに気付く。
そして、眺めていながら、何時も同じ事を考えている。
「この綺麗な、眺めをあいつにも、見せてやりてえなぁ」
思わず口に出てしまった言葉に、自分で驚き、そしてそんな自分が可笑しくて元親は小さく笑った。
この光景を見せてやりたい奴、この戦国の世に「竜」と呼ばれる自分と同じ隻眼の男。
似ているようで、違う、奴と自分の目が逆であるように、目指しているものも、生き方も。
そんな奴に、だがこの眺めを見せてやりたいと元親は何時も思う。
何故見せてやりたいのか?理由はわからない、ただそう思うだけ。
もしかしたら、知り合ってまだ日が浅いときに、
『いつか、この地の果てまでゆったりと船で見てみたいものだぜ、Ha、その時はてめえの船をcharterさせろよ』
などと、言っていたのを、微かに覚えているからだろうか。
『ちゃーたー』という言葉の意味を後で知り、『俺の船を貸切ろうなんて、なんて図々しくて豪快な奴だ』、と思ったような気がする。
何にせよ、奥州の独眼竜にいつか、この船の上からいろんな海を見せてやりたい。
特に、今の時季の美しい波の煌きを。
「あぁ、そうだ・・」
元親は、急に何かを思い出したかのようにそう言うと、先日商売用に仕入れた貝細工の材料を数枚持ち出してきた。
装飾用に加工されたそれは薄く綺麗に磨かれている。
元親は、小刀でそれらを適当な大きさに割り、重機の模型を作る際の鑢で形を整える、そして、小さく穴を開けると、小さい順に糸で繋ぎ合わせた。
「よぅ、どうでぇ」
近くに居た野郎共に見せながらそう訊く。
「はぁ、こりゃぁ、なかなか、お日さんの光が上手い具合にはね返ってきれいですなぁ」
元親の作った、それをお世辞ではない、正直な言葉でかえしてくる。
「はは、そうかぁ、なら、上手く出来たってことだなぁ」
元親は、作ったそれを高く上げてみる。
すると、海の風に揺られたそれは、小さな波の煌きのようにゆらゆら煌いた。
元親は、次の港に着いたとき、奥州方面に行く商船に小さな包みを託した。
数週間後、奥州伊達の屋敷に小さな包みが一つ届けられた。
中には、螺鈿細工の小さな遠眼鏡と貝で出来た飾りのようなもの、そして、短い手紙が一枚。
『政宗、天気のいい日に障子を全開にしてこいつを軒下に吊るしてみたら、いいものが見れるぜぇ』
手紙には、このような内容が書かれている。
政宗は、包みの中から、糸で繋がったそれを摘み上げる。
元親の手紙に書いてある『いいもの』とは何を指すのか?少しだけ考えて、天気の良い日を待つことにした。
数日後、快晴の日がやってきた、政宗は、早速軒下にそれを吊るさせ、障子を全開にして部屋の中から見てみる。
綺麗に磨かれているそれは、日の光を反射して、キラキラと煌いている。
「ほう、こいつはなかなかきれいですな、おそらく螺鈿と同じような貝かなにかでしょう」
後ろで、小十郎がそう言葉を洩らす。
政宗はそんな言葉を訊きながら、それを眺めた。
少しばかり、風が出てきた、するとそれは小さく揺れて、更にキラキラと輝く。
障子を全開にしたせいで、風に揺られる木の葉の音が大きく聞こえる、目を瞑るとまるで波の音にも似ている。
そう思ったとき、政宗は『そうか』と気付いた。
元親の記した『いいもの』、それは『海』だ。
いつかゆったりと、船でこの世を見てまわる、元親と始めて酒を交わしたときに政宗は自分からそう言ったのを覚えている。
だが今の政宗にはまだその余裕は無い。
だからこそ、陸で天下を狙う政宗に、元親は『海』を届けたのだろう。
「HaHa、波の音に貝、そしてそいつが見せるその光が、海か波・・、まったくRomanticistsな野郎だぜ」
政宗は呆れたようにそう呟く。
だが、元親の届けた海を見ていると、元親が近くに居るような気がして、暫くはこの海にいるのも悪くないと思った。
・・・届けられた海・・・
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貝を細工している時のチカちゃんは、きっと楽しそうなんだろうねぇ
2009/06/07 ブログ掲載
作品名:・・・届けられた海・・・ 作家名:いちご 松林檎