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璃琉@堕ちている途中
璃琉@堕ちている途中
novelistID. 22860
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痛みで出来た世界

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割といつでも具合の悪い女だった。
頭痛持ちだったし、胃痛もあった。正体不明の吐き気もよくあったし、朝はだいたい貧血気味だった。そして慢性の肩凝りに悩まされていた。



「今日はどうしたの?」

挨拶の後、こう訊かれるのが習慣になってそろそろ一年になる。

「生理痛」

端的に答えれば、「そういえば、そろそろだね」といやらしく嗤う。
そして秘書の一日は始まるのだ。
それだけだった。心配も同情もない、ただの確認。それに何の意味があるのか。

「紅茶飲みたいなー、紅茶」

―意味なんてないのかも知れない。

「―――私は、飲みたくないわ」

だから、この小さな反抗にも、意味なんて、

「―――今日はどうしたの?」

ハッとして、彼女は振り返る。
上司は変わらず嗤いつつ、でも、どこか愉快そうに彼女を見下ろしていた。

「どうって…」
「君、俺に何をして欲しいの」

今度はカッと頬が熱くなる。

「思い上がりも甚だしいわ」

正面を向き直り、彼女は吐き捨てた。だが、努めて平坦に並べたはずの言葉は、下腹部に走った痛みに震えてしまう。
空気も読めないのか、私の身体は。

「ねぇ、波江さん。俺は優しいからさ、君に半休くらいくれてやれるよ?今から」

ああ、痛い痛い痛い。

「それとも、」

手に取ったシャープペンシルの先を、既に置かれていた書類に滑らせる。
響くから、その五月蠅い口を噤んでくれないだろうか。

「君は違う何かを求めていたりする?」

―バキッ。

「アンタの所為で何の罪もない芯が一本、犠牲になったわね」

手の内の筆記具を、彼女は転がそうとし、

「休みなんていらないわ、だから薬を寄越しなさい」

思い切り投げた。
壁に当たって跳ね返ったそれは、背後の上司など眼中にないかのごとく、あらぬ方向へ飛んで行った。

「薬に頼るのは関心出来ないぜ」
「アンタに頼るより百倍マシよ」
「誰が有給にするって言った?」
「………」
「それに、だったら自分で取りに行きなよ」

何であの凶器はこいつを避けたのか。

「波江さん、取りに行くついでに紅茶淹れて」

舌打ちを一つ、乱暴に立ち上がった彼女の所為で、何の罪もない椅子が倒れ込んだ。



今日も彼女は順調に、具合の悪い女になっていく。




『痛みで出来た世界』