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白夜叉と総督

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今夜は来るだろう…そう思っていたから、深夜になってゆらりと銀時が現れたとき、高杉は何ら驚きもしなかった。
「…傘は」
 濡れ鼠と呼ぶに相応しい体の銀時が僅かに首を振る。
 これだけ濡れているのだから、わざわざ聞くまでもなかったと高杉は自分の無意味な問いに少しばかり失念した。
 平静を装っているつもりでも、どうしても心がざわめいてしまうのはいつものことだ。舌打ちしたい気持ちをどうにか堪え、高杉は傍らの清潔なシーツを剥ぎ取ると、立ち尽くすばかりの銀時の全身を包み込んだ。
 体格差だけでいうなら、銀時は高杉よりも一回りほど大きい。自分よりも大きな男が、ストンと腕の中に落ちてくる。白夜叉と呼ばれる所以である、彼の銀色の柔らかい猫っ毛が含んだ水滴が高杉の頬を濡らす。
「冷てェ」
 誰に言うでもなく声に出し、銀時を抱えたままゆっくりと膝を折る。何とは無しに気が向いて、雫をたっぷりと含んだ髪先を口に含むと銀時がくく…と笑った。
 銀色の隙間から、血のいろにも似た赤い瞳がこちらを覗き見る。たったそれだけで、高杉は全身が痺れるような錯覚に落ちるのだった。



 戦場を駆けずり回る銀時の様子がいつもと違うような気がする…。
 いつものように銀時の大きな背中を護っていた高杉は、ふとそう感じた。それが何なのか、うまく言葉では説明もつかず、どうしたんだろうと頭を掠めるものの、戦いに明け暮れる日々の中で銀時に問う機会もなかった。違和感は日ごとに頻度を増し、それは高杉の前でこれ以上ないほどのわかりやすい形となって表れた。
「銀時!!」
 その光景を認識した瞬間、高杉は目を剥いた。
 目の前の天人が銀時に向かって怒号を発し、今まさに大鉄鎚を振り下ろそうとしているところだった。対峙している銀時はあろうことかだらりと両手を下げたまま、ぼんやりと天人を見上げていた。…信じられなかった。
「糞ッ」
 間一髪で高杉の刀が間に合う。
「何やってんだッ!てめェ!死にてェのか!!」
 肩で息をする高杉に胸ぐらを掴まれた銀時はふらふらと視線を彷徨わせたあと、ふ、と自嘲するように唇を歪ませて言った。
「俺ら……何のために戦ってるんだっけ」
「てめェ何言ってやがる、しっかりしろ!」
 パン、と乾いた音をさせて銀時の頬を張った。銀時は鬱陶しそうに高杉を見上げたあと、護るモンなんてもうねぇのに、と呟いた。



 銀時を引きずるようにして戻った。
 歩くことすら放棄した銀時は想像よりも随分と重い。おまけに途中から雨まで降ってくる始末だ。一体今日は何の厄日かと思いながらやっとの思いで辿り着いた寝床で銀時を粗末な布団へ放り出し、腹の上に馬乗りに跨った。空を見つめる銀時の頬を叩いてこちらに視線を寄越させる。視線がしっかりと合わさったことを確認して、高杉は言った。
「…銀時、てめぇは死にてェのか」
 薄い屋根を叩く雨の音が響く。濡れた髪が高杉の顎先を伝って、ぽたり、ぽたりと銀時の頬や唇に落ちた。
「なァ、答えろよ。てめぇは死にてェのか」
 襟首を掴んでがくがくと揺さぶる。人形のようにされるがままの銀時は何も答えない。
「銀時ィ!!」
 恐ろしくなった。
 この世界は、俺から銀時まで奪うつもりなのだ…。
 自分の意図するところとは別の何かが決壊したように、高杉の両目からぼたぼたと涙が零れた。銀時、銀時、と名前を呼ぶ。怖くなって、銀時にしがみついた。しがみついたまま嗚咽を繰り返していると、ふいに銀時が高杉の手首を掴んだ。
 驚いて顔を上げる。目が合った、と思った次の瞬間には、素早く身体を入れ替えた銀時に組み敷かれていた。
 何が起こったのか判断出来ずに呆気に取られている高杉の顎を、銀時の大きな手が掴み上げる。あっと思う間もなく唇に噛み付かれ、痛いと言う言葉さえ飲み込まれて高杉は銀時の舌と唇に翻弄された。
 銀時に口付けられているという、この状況が飲み込めなかった。
 何で、どうして、という言葉が何度も脳裏に浮かび、けれどその度に銀時の唾液がどろりと思考をかき消す。好き放題口内を犯され、唐突に離れたそれは高杉を見下ろして言った。
「おまえ……俺のこといつからそんなに好きだったの」
 その言葉に、激しい羞恥を感じて思わず顔を背けた高杉を銀時は許さなかった。
「なァ高杉」
 前髪を鷲掴まれ、再度問われた。
「そんなに泣くくらい、俺のこと好きなの」
 そうだとも違うとも言えず、銀時の朱に染まった瞳を黙って睨みつけると、銀時は悪趣味…と呟いて、高杉の眦を拭った。



 戦が長引くと、銀時はふらりと高杉のもとを訪れて気まぐれにセックスをした。何度肌を重ねたのか、数えるのが億劫になったころ…ぽつりと銀時が呟いた。
「…生きてるって感じがする」
 何が、と問いかけると銀時は薄い高杉の胸に手のひらを置き、暫くそうしたあと頬を当て目を閉じた。
「高杉の心臓の音がさ、すげーどくどくゆってる」
 当たり前だろ…と言おうとして飲み込んだ。来る日も来る日も尊いはずの命が無駄に消えてゆく中、そんな当たり前のことすら…言葉にしなければ気付かないのだ。
「てめぇのもちゃんと動いてるだろ」
 ほら、と言って銀時の胸に手を置いた高杉をちらりと見て、銀時はフッと笑った。
「だよなァ…」
 何だか、無性に泣きたくなった。
 世界の終わりなど……とうに見えている気がした。
作品名:白夜叉と総督 作家名:いち