Jules of all trades...
俺の撮った写真を手に、長身のカメラマンはそう言った。
どういう意味?と首を傾げると、そのカメラマンはただでさえ細い目を更に細めた。
「何事も人より上手くできるけど、大成しないってこと」
そう言って、口の端だけ上げて笑う。
人を馬鹿にしたように笑うのはこの人の癖だ。だから、本気で嫌味を言ってるのかどうかはわからない。まぁ、多少はムカつくけど。
それに、彼の言っていることは本当のことだ。
なるほど……と俺が小さく呟くと、カメラマンは少し拍子抜けしたような顔を見せた。
野郎……本気で嫌味を言っていたらしい……ムカつく奴……。
少し前までは演劇にはまっていた。脇役だったけど、憧れだったヒーローの役で舞台に立った。見所があるって皆言ってくれたけど、続けようとは思わなかった。だって、女役も男がやってるんだもん。
演劇をやめた後も誘われるままに、気になったことには色々手を出してみた。
水泳とか、ジャグリングとか……どれもいい線いってたけど、そもそも男子校で活動するって時点で、きっと俺には向いてないと思う。
結局、今は卒業アルバム係なんてのを任されたせいで、カメラをやっている。幸か不幸か知り合いにカメラマンもいることだし、折角だから本格的に。
そのカメラも、面白いことは面白いし、そこそこ撮れてはいるみたいだけど、さっきみたいなことを言われる始末だから、あんまり向いてないのかもしれない。だから、係が終わったらまた違うことをやってみようと思ってる。
色々なことをやってみたいし、色々な世界を見てみたい。
だって俺は二人分、やりたいことをやらなきゃいけないんだから。
器用貧乏なのは、そのためなのかもしれない、なんて思う。
「まぁ、悪くはないと思いますよ。卒業アルバムに使うくらいなら上出来だ。ところで、被写体をより深く知るために、君が被写体になってみないかい?」
「それならやりましたよ、五つの頃に」
「それは遊びの延長ででしょ。そうじゃなくて、もっとアーティスティックな」
さっきと変わらない笑みを浮かべているカメラマンを前に、俺は眉を顰める。
「どうせ、大成しないんでしょ」
「いや、かなりいい所まで行くんじゃないかな。なにせ、カメラマンに才能があるからね。ついでと言ってはなんだけど、授業料もタダにしてあげるし」
「え……お金取るつもりだったの?最低……でも、面白そうだからやってもいいかも。その代わり、写真は表に出さないでね、絶対。あいつらに見られるのは恥ずかしいから」
「OK、それは約束する。絶対に表には出さないよ」
そう言って笑みを浮かべたカメラマンの本心を、俺はまだ知る由もない。
いい感じに撮れてたら母さんに送ってあげようかな、なんて思いながら、俺はそれなら……と呟いた。
作品名:Jules of all trades... 作家名:akr