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小さな箱のなか

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「ねぇねぇ、銀ちゃん」
「あー? なんだよ」
 ソファの背もたれにだらんと垂れ下がって銀ちゃんの着物を引っぱると、視線と意識の半分をテレビに向けたまま面倒臭そうに指を絡めてきた。
 最近は二人でいると、銀ちゃんはふとした時に触れてくるようになった。いつだって夜の匂いがする訳じゃないけど、今までともどこか違う微妙な変化。自分でもうまく説明できない何か。
「銀ちゃんはアンアン言ってるのが好きアルカ?」
「あぁ?」
 銀ちゃんが不審で嫌そうな顔を向けてくる。唐突と言えば唐突な私の言葉で、テレビに取られていた部分を取り戻した事に内心ほくそえんだ。


 その日、銀ちゃんはまたどこかで飲んでいたんだろう日付が変わっても帰って来なかったので、私は銀ちゃんの布団に転がっていた。銀ちゃんの薄っぺらな布団に包まっていると、銀ちゃんが側にいるような気がして良い。
 以前は銀ちゃんが帰らない夜は押入れに篭って数を数えていたけれど、最近はそんな事もすっかりなくなった。こうして銀ちゃんの残り香に包まれているとそんなに淋しくないという事を発見したし、こうしているとそのうち睡魔がやって来て優しく撫でてくれる事を学習した。

 でも、その日はちっとも眠くならないのでゴロゴロゴロゴロ転がるばかりだった。右に転がっては布団の上掛けを身体に巻き付け、左に転がっては身体から布団を剥がす。そんな事を繰り返すのも飽きた頃、ふと思い立ったのだ。
 銀ちゃんの愛用品の隠し場所は知っている。一応、未成年の私と新八の手前、すぐに目のつく所には置いていないけど隠しているとは到底言えない。だって本人自ら見てもいいけど、鼻血まみれにすんなよって言って新八を怒らせていた。

 ほんの気まぐれだった。銀ちゃんが帰ってこないから眠くなるまでの、暇つぶし。
 コレクションの中から適当に一番上に積んであった物を手に取りビデオにテットする。
 すぐに軽薄な音楽が流れ、その後は短い場面が次々と切り替わっていく。どのシーンでも小さなテレビの中で女の子達は甲高い声を惜しみなく披露していて、何だかとても気持ちよさそうに見えた。モザイクだらけで具体的に何をしているのか良くわからない所も多かったけど。
 あんな風になる気持ちは初心者マークの私には正直良くわからなかったけど、銀ちゃんはああいうのが好きなのかなぁと漠然と思った。


 絡めていた指をほどくと離れがたいように縋ってきて、私としても名残惜しかったけど、 軽く流して一点を指差すとああ、と納得したようだった。
「あれは男共の願望だから」
「願望?」
「じゃあ、やっぱり私もアンアン言った方が銀ちゃんは嬉しいネ」
 大体アレは銀ちゃんのコレクションで、きっと嫌いなら集めたりしないだろうと考える。
「いやいや、いらねーから、そんなの」
「どうしてヨー」
 足をばたつかせながら銀ちゃんの洋服を掴んでいたら、再び指を掬われる。銀ちゃんの節がでこぼことして硬い器用な指先が、並ぶと小ささが目立つ私のそれを撫でたり絡めたり。爪の際を擦られるとむず痒くて気持ち良い。ひとしきり指遊びをして、上下から手を包まれ撫でられると少しくすぐったい。
「銀サンは過剰演出は嫌いなんですー」
「過剰?」
「あーもーお前は気にしなくていーの」
 ソファに寄りかかっていた私を自分の膝に引きずり出して乗せると目線を同じ高さに合わせ、口元に笑みを滲ませゴツゴツとした大好きな指でちょんと鼻先をつついてくる。
「どうしてヨ。声を出すのが普通なんでショ?」
「出したきゃ出してもいいけど、無理に出さなくていいんだってば。普通とか関係ねぇし」
 おでこをコツンとひっつけて体温の交換。もう少しで鼻がくっつきそうな位置で、心臓の動きが早くなるのを感じながら唇を突き出して抗議をしてみるけど、そんな私のささやかな抗議なんてまるで気にしないと言った感じで銀ちゃんの腕が私を巻き込んで腰を優しく擦った。
「まだ痛いか?」
「んー、ちょっとダケ……」
 今ではなく、行為の時の話だとわかった。嘘をついても銀ちゃんにはどうせバレてしまうので正直に返事をする。
「ちゃんと気持ち良いか?」
「銀ちゃんとスルのは好きヨ」
 首根っこにがっちりしがみついている私の頭をポンポンと優しく撫でて、返事になってねぇよと苦く笑う。
「だって、今まで知らなかった感覚ばっかりで良くわからないネ。でも、銀ちゃんとひっつくのは気持ちよくて大好きヨ」
 銀ちゃんとするセックスは、銀ちゃんがとても近くに感じられるし、普段では絶対に見る事ができない銀ちゃんが見れるから大好き。銀ちゃんがあんな表情するなんて知らなかった。きっとまだ私が知らない銀ちゃんはいっぱいいっぱいあるんだなと思うのは嬉しいような淋しいような不思議な気持ち。
 今、私をあやしてくれる優しい手。こんな風に手の平に優しさと愛情を込められるなんて知らなかった。
 今だって甘やかされているけど、昔のようにまるきり子供扱いという訳でもなくて、とても気持ちが良い。銀ちゃんと会った頃の私だったら頭を撫でられると素直に嬉しかっただろうし、少し前の私だったら子供扱いするなって拗ねただろう。
「そっか。まぁ、急がなくていいんだから一緒に気持ち良くなる方法探してこうぜ」
 わかった? と言って銀ちゃんは頬にキスをくれたので、お返しとばかりに私は首にしがみついてくるくるふわふわの髪を掻き分け柔らかい耳元に唇を寄せた。ちゅ、と愛らしい音を立てて口付ける方法は最近学んだこと。銀ちゃんが私にくれる小さな口付けがお気に入りで、どうしたら上手く出来るのかなって最初は思ったなぁ。

 銀ちゃんが私から学ぶことがあるのかどうか私はわからないけど、私はこうして銀ちゃんから一つずつ新しいことを覚えて、私は毎日ちょっとずつ銀ちゃん仕様になっていく。それは怖いことだけど、ちょっとだけ幸せな気分になる私は重症なんだと思う。





2006.11.27
作品名:小さな箱のなか 作家名:高梨チナ