二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
璃琉@堕ちている途中
璃琉@堕ちている途中
novelistID. 22860
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

桜色の凍み

INDEX|1ページ/1ページ|

 



カーテンを通して陽の光を感じる。
ようやく春めいた、ぼんやりと眠たくなるような。もう午後だった。

「どうして俺なんすか」

紫煙と共に吐き出されたのは、この天気にはまるで似合わない疑問。
―どうして、俺に抱かれたんですか。

「………」

隣で薄いブランケット一枚に護られた彼女は答えない。
あまり期待していなかったので、彼もまた、何も言わなかった。代わりに、再び紫煙をくゆらせる。

「良い天気ですね」

背後を振り仰ぐ。外からは子供のはしゃぐ声が聴こえて来て、階上からの影が窓に伸びている。

「どこか、出掛けませんか」

試しに言ってみた。

「………」

けれど、やはり反応はない。だが、彼はもう気にしないことにしたので、ベッドの下に落ちていた携帯電話を取り上げ、操作し始めた。近くに良い場所はなかっただろうか。

「桜、綺麗でしたよ。昨日、公園で見たんだけど」

そう、昨日の夕方のことだった。一人、今のように煙草を咥えつつ、咲き誇る桜をベンチに座って眺めていた時だった。
知った顔だ、どこで見たんだっけ。
思うと同時に彼女は彼の煙草を奪うと、呆けた唇に自分のそれを重ねて、

「桜なんて、咲いてたの…?」
「っ………ええ」

いつの間に起き上がったのか、美しい裸体をさらした彼女は、彼の肩に頭を乗せて呟いた。

「すげぇ、綺麗でしたよ」

鮮やかに思い出す、満開の桜と泣きそうな彼女。
煙草を唇だけで支えたまま、彼はふと、滅多にしない、いや、出来ないことをした。

「今のアンタの方が、綺麗ですけど」
「………っ、」

ああ、しまった。
カタカタと震える頭と、息遣い。
本当、何で俺なんて選んだんだ、アンタ。

「やっぱり出掛けようぜ、ちゃんと送ってやるから」

それで、俺が殴られてやるからさ。
とは言わず、彼は落ちそうな灰を抱えた煙草を、そっと指に挟んだ。



―――「名前、何だっけ」
「………」
「確か、な」
「呼ばないで」
「………?」
「呼ばないで、お願いだから」
「…じゃあ、呼ばねぇ。その代わり、俺の頼み、聴いてくれるか」
「………」
「アンタは、何も考えないこと。好きにして良いから」
「………っ、ごめ」
「それと、」



―――「ごめんなさい…っ」

約束を破った唇に、これが最後とばかりに彼は口づけた。彼女がされたこともないだろう程に、優しく。

「アイツ、本当どうしようもないっすね」

だけど、彼女が欲しいキスは、これではないから。煙草で苦いこれでは、ないから。だから、

「俺がアイツ殺さないで済むように、ちゃんと捕まえててやって下さい」

静かに笑ってやった。





『桜色の凍み』