この瞳に澄んだ空が君であるのなら
3秒ほど、沈黙があった。
アナウンスが流れ、ヒロトは一歩足を引く。
「それじゃあ、行ってくるよ」
目や頬の動き、一つ一つの動作が妙にはっきり見えた。
思わず唇を噛みしめる。
昨日まで感じていた悔しさとは違う、言葉では言い表せない気持ちが押し寄せてきた。
それを飲み込むと同時に、今まで溜め込んできた様々な思いを感じながら目を伏せる。
いってらっしゃい、そんな別れの言葉の代わりに。
瞼の裏に残像を残すような微笑を見せた後、ヒロトはこちらに背を向け、共に世界でプレ
ーする仲間たちの元へと歩いていった。
その姿を最後まで見送ることも出来ず、緑川は俯く。
「言葉に出来ないなら、それでもいいんじゃないかな」
隣で声がした。
松葉杖をつき、同様に見送りに来た吹雪の声だった。
「今は、我慢できないものを無理に我慢する必要もないよ」
心の内を見透かされたようで、そして同時にこみ上げてきた感情に、息がつまる。
何かに急かされているような、そんな気さえした。
このままでは駄目だと、吹雪の言葉が結論を出す。
やっと自分自身に認められた想いが、涙となって頬にこぼれ落ちた。
言いたくても言えなかった言葉を、飛び立とうとする飛行機に向け、はっきりと放つ。
「俺も、すぐに行くから」
そのとき、最高の笑顔でいられるように。
雲のかかるあの場所に、青く、青く空を描く。
作品名:この瞳に澄んだ空が君であるのなら 作家名:あさぎ