しにゆくなかで
上機嫌なルシフェルをよそにハハ、と乾いた笑いを返した。笑う際に凭れ掛かった椅子がギイ、と音を立てる。木製の中でも”やわい”椅子なのだろう。
そうだな、俺は自分の事を語るのが好きじゃない。それに俺は自分の名前を呼ばれるのも好きじゃない。だから72通り。72分の1の確率なら呼ばれてもいいかなって思うんだ。それくらいには自分の事が恋しくなる。逆にそれほどには自分の事に関しては恋しくならない。
「おい」
「ん?」
「こんな所で位自己分析もたいがいにしな、ほら飲めよ」
女のように顔を赤らめるルシフェルにそう言われても俺の自信のなさは膨らむばかりで、同時に彼も弱い口ではないのかと思うが楽しそうに笑う所を見る分にはまあ、いいか、とも思う。差し出された器は人差し指と親指だけで持つに十分だった。それから顔を垂直に。無色透明の液体は流れる。見た目で主張しない代わりなのかよく分からないが今何処を伝っているかそいつの熱をもって分かる。食道が少しヒリヒリと痛む訳ではないが熱、そうだ熱をもっている。
「ルシフェル、度数いくつのだ」
「40」
「ばかお前っ」
じゃあお前も同じものを?という言葉は口をついて出なかった。咥内まで熱くないけど熱を持つようなやはりヒリヒリという言葉で例えるのが一番適切だろうか――とそんな表現の例え話はいい、俺は咽るばかりで。こんな時にでも俺は自分自身の心配はしない。何故って?ルシフェルにこんな不安で心配そうな顔をさせる自身が大嫌いだからさ。ああ、ここにマッチがあれば俺は今すぐ口に火を点けるのに。