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サンプル|城北ボーイズ・センチメンタル

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001
「どうしたの?」
 成田譲は、隣を歩く親友・仰木高耶を見上げて伺った。雪がちらちらと、粉のような形で降っている。軽いからか良く風にのって、踊らされていた。
 高校二年生のとき。冬休みが明けてすぐ、始業式の日だった。待ち合わせ時間通りにはいたものの、どこか表情に翳が落ちている。
「何かあった?」
 重ねて問うても、高耶は何も答えず眉間には小さく皺が入ったままだ。どうやら話しづらい内容らしい。
「話したほうが楽になるよ」
 こういう寡黙になりたがるときは何度も同じことを訊くと振り払われてしまうので、一言別の台詞で言い、一旦やめてみる。譲も口を閉じて黙々と歩いた。聞いて欲しかったら高耶も自分から話し始める。
 高耶は抱える悩みを共有しようとせず、自身のなかで強引にでも解決させようとする節がある。今はだいぶ話してくれるようになったほうで、昔はもっと頑なだった。誰かに頼っていたくないという意固地と、実際自力で何とか出来た確証からの自信のためだ。本当に信頼し心を開いている人間にしか、彼は胸のうちを明かさない。完璧にそれが得られているのは多分、自分だけであると譲は自負していた。
(だからいつも)
 彼の、打ち明けにくい悩みを聞くのは、自分が一番最初なのだ。
「正月にさ」
 向こうから、ようやく口を開いた。後者だったらしい。
「母親からまた年賀状が来てた」
 憮然とした態度で紡ぐ。
 高耶の両親は、彼が小学六年のときに離婚している。父親が職を失った途端にギャンブルやアルコール、暴力に手を染めだした。母親は耐えられなくなり出て行った。高耶曰くは、「子どもを置いて他の男のもとへ自分だけ逃げた」のだ。その後再婚して一子をもうけ、仙台で暮らしているそうだ。
 その母から年賀状が来だしたのは、確か一昨年から。
「今年も来たんだ」
「今更だっつーんだ」
 吐き捨てるような言い方だった。高耶にとっては恨みの対象で、母親という存在は辛辣な過去を思い出す欠片なのだろう。睨む瞳にはきっと、最後に見た母親の姿が映っているのかもしれない。
「高耶」

002
(今日も一日終わった)
 仰木美弥はカレンダーの今日の日付に小さくバツを打った。夜、眠る前の日課だ。
 季節はときとともに巡り巡る。春で暖かさを感じれば、何ヶ月後には夏が訪れ熱に焼かれて茹だる。秋に侘しい色合いと空気の冷えに涼しくなったと思えば、冬が襲い凍えて体は温度を求める。そして、また待望の春が来る。
 日々を過ごしていれば一年のなかで季節は四度変わり、そうして時が流れているのを視認する。何度かの春夏秋冬を感じ、それらの間に育んで大人になっていくのだ。
 いつかはこんな日が来るとは思っていた。彼だってずっと子どもじゃないし、来て欲しいとも望んでいた。でも実際こんなに早く来るとは思わなかった。今はひどく、そんな日は永劫に来ないで欲しいと願う。とんだ我儘でも、それが現実で。
 兄の仰木高耶は、この極寒の冬を過ぎたら誰かのものになる。兄の意思で、松本から……この家から旅立つのだ。大学進学を機に上京して、現在関係を続けている恋人のもとへ身を寄せる予定だ。当初はアパートか何かを借りるつもりもあったらしいが、結局同棲生活を選んだ。高耶自身が誰に言われたのでもなく、決めた。
 美弥は部屋の灯りを消し、毛布も捲って掛け布団に体を潜り込ませる。
(大学に行くのだって)
 ずっと、卒業後は就職すると言い張っていた高耶だ。進学資金などありはしないのだと決めつけていて、本当は中学を出たら働くつもりだったみたいだ。高校には後で就職する際に卒業資格が要るからと、取り敢えず通っているだけのようなものだった。
 大学進学そのものは、夢である職業に就くためにはどうしても必要だったので、する理由にそれを出されたときは納得した。諦めきれていなかったのだと。
 でも、兄が一度決めたことを覆すのは、相当なきっかけがないと有り得ないし成し得ない。驚くほど頑固だ。
 そして間違いなく、それは直江だ。
(寝る前にこんなこと考えちゃ駄目だ)
 夢見が悪くなりそう。布団を掴んだまま寝返りをうつ。暗いなかなので大して視界は変わらない。
 何だか凄まじい独占欲が芽生えていた。自分の手元から、高耶が離れていってしまう。毎日の光景から高耶がいなくなる、考えたら寂寥感よりずっと嫌悪のほうが強かった。