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サンプル|松本×新宿ボーイズ

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001
 長野県松本市に初めて来てから早二ヶ月。
 待ち合わせは大体、宿泊中のホテルの目の前にある広場だった。ロビーのほうが空調も効いて七月の暑さを凌げるだろうに、と言うと、「ブエナビスタなんか入れるかよ」という理由で突っ返された。雰囲気が合わないらしい。
 四、五段ほどの階段を昇れば、木製の屋根付きで休憩所のようなものが設置されている。真ん中を円形に包むようにしてベンチが並んで、あまり見かけないが時折他にもひとがいるようだった。
 時間は決まって仕事明けの夜八時頃。もしくは相手がバイトや用事があるともう二時間ほど差がつく。後者のように彼が遅く、自分に余裕があるときは一旦ホテルに戻り一服して、普段着に着替えてから出る。今日は前者なので、帰路の足で広場に向かった。
 松本という場所は、山間部で雪がたくさん降る、気温もマイナスまで下がるから、一年を通して涼しい気候だろうと想像していた。が、流石にそうではないらしい。盆地なのもあるだろう、地元民曰くは「五月からもう暑い」そうだ。ただ陽が沈みきって夜が訪れると、きっちりスーツを着込んでも、昼間かいた汗の所為もあるだろうが少し肌寒い。これまた地元人は「熱帯夜ねーのが救い」だそうだ。
 直江は緩めていたネクタイを締めた。外はちっとも風がないが、気温自体が下がるようなのでやはり涼しい。それにこれから大事なひとに会うのにだらしない格好は出来ない。
(もう来てるだろうか)
 まだ約束までは時間があるけれど、わからない。残業なんてぶっちぎって帰って来れば良かったと、直江は後悔した。すぐ終わるはずが、何だか次々に連鎖してしまってやっときりがついたころには予定を五分ほど過ぎていた。
 きっとあのひとはたかが五分と笑うだろうが、自分にとってはされど五分だ。
(待たせているかも)
 詫びたい気持ちを抱き、小さな階段を昇りきれば。
「ああ、やっぱり」
 ベンチの人影に直江は眉を下げた。見慣れた背格好だ、一旦家に寄って着替えてきたらしい。ジーンズにスニーカーに半袖のTシャツ、いつも荷物が極端に少ないのでポケットに財布と携帯が入っている。
「高耶さん」

002
「うっわいらねー」
 学生の一年のなかで最も楽しいだろう夏期休暇中。課題とバイトに費やして過ごした平日を越して週末。直江家のソファで高耶はファイルを捲って嘆いた。
 開いているのは、先週いつもの仲良しメンツでお台場の海浜に遊びに行った際の写真だ。遊泳は禁止されていたが暑かったし海辺で遊ぶだけでも充分濡れて、最初のうちはTシャツを着ていたが肌に張り付く感覚が嫌になって脱いだ。おかげで今、全身が焼けてひりひりと痛い。日焼け止めも矢崎に借りて塗ったはずだが、あまり効果はなかったようだ。
「現像終わったんですか」
 ミネラルウォーターを片手に、シャワー上がりの直江が訊いてきた。普段整えている前髪を崩すと、格段に若く見える。やっと歳相応くらいだ。
「昨日。回ってきた」
「見てもいいですか?」
 隣に直江が腰掛ける。少し傾けて見えるようにしてやった。あのときの宿は直江が手配してくれて、仕事明けにホテルまで会いに来たから全員と会っている。
「……見事に、ですねぇ」
「撮りすぎだろ」
 ぺらぺらと捲りつつ、高耶は嘆く。
 写真は譲と紗織がデジカメを持ってきていて、それらで撮ったのデータを纏めてきちんと写真用紙に現像したものだった。ただカメラは大概千秋か矢崎が持っていたので、途中から十枚ほど物の見事に水着女子だらけの写真だ。ツーショットを撮っているのは連絡先でも交換したのだろうか。
「すごいですねぇ」
「アホだろ」
 全部現像して全員に回して、欲しいものは焼増ししようという話はしていたが、こんなものまでしなくても良かったのでは、と思えてくる。
(ああ、でも)
 高耶はじっと映る女子たちを見る。細っこい、これから日に焼けていく白い肌たち。多分一生懸命吟味して選んだだろう水着たち。薄く化粧をしている顔に束ねた髪。大体、千秋と矢崎の選り好みなので傾向は似通った雰囲気が多いが。
 この子はまあ、この子は駄目だな、これはいいんじゃねぇの。と、勝手に何となく評価をつけつつ一枚一枚見ていたら。
「好みの子でもいたんですか?」

003
 まずいことになった。
(しまった)
 一月の金曜の夜。外は蕭々と雨が降っていた。
 松本駅の改札前で、息を散らした直江は呆然と電光掲示板を見上げた。時計は二十時ちょうどを指す。一番上で明滅しているスーパーあずさの名前。新宿に直行出来る特急の終電だった。
 しまった。一時間間違えていたらしい。明日も仕事だから宿泊は出来ない。調べてみたらまだ四十分台の長野行きの特急に乗れば、そこで新幹線に乗り継いで東京へ行ける。東京−新宿の終電は午前零時過ぎだから、何とか帰れるが。経費が嵩むので兄にまた叱られそうだ。
(もっと早く帰れるはずだったのにな)
 みどりの窓口へ行って、ワイドビューしなのの特急券を予約する。松本支社のある営業分で少し問題が発生して、それが、自分が代役をしていた夏頃の案件だったようなので、急遽出張してきた。トラブル自体は大したことなかったはずだが、彼が復帰してから電話でしか引継ぎをしていなかったので、ついでに資料を見せて再び伝達していたら時間を食ってしまった。
 駅ビルに入る。まだ猶予がある、煙草が吸いたい。一階の喫煙所に真っ直ぐ向かった。
 ドアを開けて中に入り、直江は溜息をつきつつ椅子に座り込んだ。
(せっかく松本まで来たのに)
 会えずじまいだ。カチンと煙草の先端に火をつけ、直江は憂いだ。新学期が始まったぐらいか。突然のことで連絡も出来なかった。今思えば、したところで会う時間も作れなかったろう。
 クリスマス以来会っていない。新年の挨拶も電話で済ませてしまったし、声しか聞いていない。仕事が立て込んでしまったのもあったが、高耶は高耶でバイトと課題で忙しなく、どちらも動けなかった。
 そろそろ、高耶不足で枯渇しそうだ。
 紫煙と一緒に嘆息する。今まで、こんなに欲する相手はいなかった。後腐れない関係ばかり求めていた以前とは大違いだ。