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孤独な戦い 孤独の戦い

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「…おい。バリー」

声をかけられふと見れば一度出血が酷かったために気を失っていたギロが目を開けていた。


近付き頭元に膝をついて「はい…。」いつものように返答を返す。俺達が駆けつけた時はほとんどの狼が負傷していた。不意打ちの襲撃で村の離れの集落に食料を届ける前の出来事だった。帰りが遅いため、俺達が様子を見にきたら…血の海だった。村の離れにはお産を前にした女と年寄りがいる。餌を自力で取れないものばかりなので定期的に村の若者何人かで届けることにしていた。今回はギロとギロの兄にあたるロキさんと他2~3人で届けにいっていたのだ。周りには山狐の集団の死骸が転がっていた。ほとんど子供ならばどうにかなると思ったのだろうが…考えが甘かったようだ。

「年寄りや…女や、ガキどもは、生きてるか…?」

ギロは左顔面がかなり深手の傷で出血がひどく私達が来たときは気絶していた。

急いで血止めのつけて他の処置にあたっていたが・・先ほど終ったところだった。

「…大丈夫です」
また変わらず返答を返す。

「…ロキは…苦しんだ…か?」ギロの声音も変わらない。

ヒュン…と小さな声を上げて風が吹く

「いいえ…貴方の状態を聞いてすぐに。おそらくそう長くは…」

ロキは俺達が来たときには最後に残った山狐の喉を噛み付いたままで、まだ生きていた。

だが、山狐は息絶えていたが、それでも離さず、俺達が駆けつけた時も初めは敵だと思ったのか…そのまま向かってきて、味方だと気づくと、そのまま力尽きたように倒れて、意識が殆どないような状態になった。

何度も、繰り返し、仲間やギロや連れの狼の安否を聞き返し…そして、何度目かの周りの声に「…ああ、わかった。」そう一言だけ言い残して、すぐ息を引き取った。

「…そうか。」
ギロはただそれだけいい、そのまま何も言わなかった。


ギロとロキは年は2歳違いだが、仲が良かった。哀しくも無いはずがないだろうが。

「ギロ…あの…」
おもわず声が出たがかける言葉が出ない。そんな俺をちらりと見て…

「悪いが…お前…アイツつれて帰ってやってくれ」それだけいい…起き上がった。

「本当は…俺がつれて帰ってやりたいけど、この様じゃ無理だから…よ。」とふっと笑った。

そういって…もうそのままずるずると脚を引きづりつつ歩き出した。俺は…

「わかりました。」ただ…そう答えた。

周りの若い狼も俺以外に駆けつけた狼につかまったり…して歩き出す。

ギロだけが一人誰の支え無しで歩いていた。

その背中はどんどん小さくなる。


俺はもう冷たく硬いロキの体を担ぎその群れについて歩く。

ふゅうー…吹く風の音は、まるで泣いているような音だ。


ギロは もし 誰も 此処にいなかったら、本当は 泣きたかったのかもしれない。

たった一人の兄の死。

でも、誰かいる時は けして泣けないんだろう。

ギロもロキも頭候補としてそう教育を受けている。だが…

それはそれで 哀しいことだ。

ガブあたりがいればワンワン泣き喚いているだろう。だが…あいにく今此処にはいない。

いつか、彼が何も気にせずに泣ける場所を作れたらいいのに…とこのときほど思った事はない。

そして10日後 一山先にあった山狐の集団は全滅した。


誰がそれをしたのかは…あえてここでは語ることもないが。


刃向うものは容赦しない。それが俺達の鉄則。


そして、それは、常に生きるか死ぬかの自然の世界で生きてきた俺たちなら普通の事だった。


作品名:孤独な戦い 孤独の戦い 作家名:美影透