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午後3時の間奏曲

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人間誰しも、ホッと息を吐ける瞬間というのは必要だ。
 子供の時分から穏やかな日々を求め、それが叶わなかった静雄は、特にそういった瞬間を渇望していた。
 風呂に入ったり、昼寝をしたり、凝縮された休息を求めていた。身体がではない、精神がだ。
 切れ易いということはストレスを溜め込み易いということでもあって、漸く得た仕事と理解のある上司を得た今でも、それは簡単に消えてくれるものではなかった。
「よっし、これで本日のお仕事は終了。静雄、お前このまま帰って良いぞー。後は俺がやっとくし」
 お疲れさん、と告げて別れたのは、ひょんなことで十年振りに再会した、かつての先輩であり現在の上司でもある田中トムだった。デスクワークは静雄の得意とする分野ではないので、報告書などは大抵彼が担当する。
 一時期静雄もパソコンくらい扱えるようになろうと思ったこともあったのだが、こういうことは適材適所だと言って、静雄に初めての部下が出来た今でも田中が一手に引き受けている。確かに、頭を使うことが昔から苦手な静雄と、変な方向に日本語が堪能なヴァローナでは、テキスト通りに文字が打てるがどうかも怪しい。
 逆にアイツはパソコンが得意だよな、と静雄が思い浮かべたのは、天敵の同窓生ではなく最近肩書きが新しくなった童顔の高校生だった。
 公園に設置された時計を見れば夜にはまだまだ時間がある。静雄はポケットから取り出した携帯を開き、暫し電脳機器と格闘した。

「静雄さん!」

 ベンチに座ってソワソワ携帯を弄っていた静雄は、届いた声にパチンと携帯を折り畳んだ。子犬のように小走りで駆け寄って来る帝人の姿に、心が安らぐのを感じる。
「急に悪いな。大丈夫だったのか」
「今日は委員会の集まりもありませんし、テスト期間で短縮授業ですから」
 図書館に残って勉強してました、という帝人は、静雄が心配することが失礼なくらい成績優秀者の筈だった。名前がまだ来神高校だった頃とは偏差値もまた随分と変わっているだろうから、テスト前に新羅の世話になっていた立場から言えることなど何も無い。
「それに、こうやって平日に静雄さんからメールを貰うなんて初めてですから、嬉しくて」
「仕事が早く終わったんだ。迷惑じゃなかったら、それで良い」
 会いたいと思っていたのが自分ばかりではなかったことに、純粋な喜びと安堵を感じる。先程送った素っ気ないメールだって、何度もやり直した末の産物なのだから。
 こんなことを言ったら、新羅には同士扱いされて臨也には爆笑されるだろうと分かっていても、今こうして帝人と隣り合えることが幸せで仕方が無かった。
「これからどうしましょうか? 行きたい場所とかありますか?」
 そう問い掛けながらも視線が定まらないのは、やはり緊張しているからか。何しろお互いに恋愛初心者でデートも片手で数えられるくらいなのだ。無理もなかった。尤も静雄は、帝人と恋人らしいことをしたいという欲求は驚くほどに低いので、デートプランに頭を悩ませたことなどなかったのだけれど。
「何処でも良い。お前が居れば」
 思い出を作りたい、という欲求よりも、少しでも長く一緒にいたい、という気持ちの方が、ずっとずっと強いのだ。
 だから当たり前のようにそう口にしたのだけれど、帝人は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした後、茹で蛸のように真っ赤になった。往来で恥ずかしくないんですかと付き合い始めの頃に言われたが、恥ずかしいことだと思わないのだから仕方無い。
「……じゃあ、お店に入らないで此処でお喋りとかでも良いですか」
「あぁ、良いなそれ」
 この格好だと、どうしたって一目を引いてしまう。そのこと自体には静雄も諦めにも近い感覚で最早慣れたものだが、それに帝人を巻き込むのは本意ではなかった。
「今日は暖かいし……コンビニか何処かで色々買い込んで、3時のおやつにしましょうか」
 甘いものは、良いらしいですよ、身体の疲れにも頭の疲れにも。
 足早になっているのは、照れを隠したいからだろうか。そんな可愛いことをしても、容赦の無い身長差がその努力を無駄にしてしまっていることに気付かない。
 ――プリンやシェイクより、帝人といる方が余程癒やしになるのだけれど。
 そんなことを言えば、また帝人は顔を真っ赤にさせてしまうだろうから、静雄は思うだけに留めておくことにした。
作品名:午後3時の間奏曲 作家名:yupo