誰も呪わずに沙羅双樹は咲いた
対称でありながら、非対称。
それは性格から外見を含めた。どんなに双するものであっても、まるで違う。そんな引き合わない磁石のような歯痒さを、志摩は「双子」だという奥村兄弟に感じていた。
しかし、はっきり言葉で表現しづらい歯痒さに、志摩はまた少し眉間の皺を増やした。
兄を持つ志摩にとって、燐と雪男の間にあると感じれるものは兄弟のそれであったし、そうでもないように思えた。
双子ならではの距離なのか。日を重ねるごとに思うが、お世辞でも双子には見えなくなってきているというのに。違和感ばかりが志摩の第六感に引っかかった。
どうにも、すっきりしないのだ。
だからこそ、奥村燐が何者であるか分かった時、志摩は驚いたものの、ただ、嗚呼、と呼吸をするように納得した。
最初から隔たりはあったのだ。根本的な違い。同じような姿をすれど、同じではなかった。双子を見たときの違和感は既にそこにあったのだ。志摩の第六感は間違ってはいなかった。
燐が背負うもの、雪男が背負うもの。同じようで、すれ違った何かを理解した。
なんと面倒な双子に出会ってしまったのだろうとも思った。
何故ふたりは、ひとりになれなかったのか。燐が魔神の落胤だからなのか、雪男が不思議と人間だったせいなのか、もしくはたったひとりにならないようにあの二人が、お互いが、望んだのか。
そこまで考えて志摩はため息をこぼした。どっちにしろ、触らぬ神に祟りはない。ないと信じたい。
しかし、神様はどちらだったのだろうかと思いながら、志摩は、もし自分が何者かと知る以前の燐とその時の雪男に会えばどうだったのかを考え、そこで自分の両頬を両掌で思い切り叩いた。
「アホやなあ。そんなことしても、どうにもならんやろ」
そうだ。もしも、という考えなど意味がない。
自分は生まれた。そしてあの青い夜に祖父と一番上の兄は死んだ。それはどうしようもない事実。なんて無駄な思考、とちいさく苦笑した。
あの兄弟は、こんな運命を呪おうと思ったことは果たしてないのか。
しかしそれすら無駄な思考だと思い、志摩は苦笑をそっと、噛み殺した。
誰 も 呪 わ ず に 沙 羅 双 樹 は 咲 い た
作品名：誰も呪わずに沙羅双樹は咲いた 作家名：水乃