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FATE×Dies Irae 1話-2

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私立穂群原学園の屋上。
 吹きすさぶ寒風に僧衣の裾をなびかせながら、その男は金網越しに、夜闇に沈む街並みを見下ろしていた。
「さて、どうしたものですかね……」
 男は途方に暮れた表情とは裏腹に、呑気な口調で独りごちる。
「レオンハルトに敗れ、城(グラズヘイム)に呑み込まれた……確かにそこまでは憶えているのですが――ならば何ゆえ私は、今このような場所にいるのか……?」
 理由自体ははっきりとしている。だが、どうにも筋が通らない。
 ――と、なれば答えは一つ。
「おそらくは我らが副首領閣下の計らい、ということなのでしょうが……解せませんね。私をこのようなかたちで蘇らせることと黄金の帰還が、一体どういった具合に結びついているのか……手持ちの情報だけでは皆目見当もつかない。まあ、何はともあれこれは僥倖。敗者復活の機会を与えられたうえ、あわよくば黄金の恩恵無しに悲願を成就することができる。一度脱落した身には過分な計らいだ。もっとも、あの悪趣味極まる副首領閣下のことです。そんな美味い話なわけがありませんがね」
 男はやれやれといった様子で肩を竦め、
「――ところで」
 ふと思いついたような調子で、気安く背後に声を投げる。
「あなたがたはいつまでそうして隠れられているおつもりですか?」
 気配が動く。
 階段部屋の影の下。暗がりの中から、月明りの中へと足を踏み出したのは一組の男女。
「いつから気づいていたのかしら?」
 艶やかな黒髪をツインテールに結った美しい少女が、敵意を研いだ声を、僧衣の男へと突きつける。
 男は注がれる敵意などまったく意に介した様子もなく、涼しげに応じる。
「ほぼ最初から。隠形は私の十八番なものでして。身を潜めるのも、潜めた敵を見つけるのも、これでなかなか得意なのですよ」
「要するに、私たちはまんまと誘い出されたってわけ」
 少女は腰に手を当てながら、溜息まじりに呟いた。
「ええ。ここであれば、余計な被害を出さずに済みます。先日のような真似は、私も極力したくはありませんからね」
 嘆くような男の言葉に、少女の眉が険しく吊りあがる。
「……それはつまり、この間の殺人事件はあんたの仕業と考えていいわけかしら?」
「然り。返す返すも、あれは不幸な事故でした。ああ、でも心配はいりません。彼らも、この私が必ず救ってみせますゆえ」
「……っ! 何わけのわからないこと言って――!」
「――問答はそれぐらいにしておけ凛」
 激昂しかけた少女を制したのは、白い髪と浅黒い肌をした長身の青年だった。
「アーチャー」
「この手の手合いは口先で相手を翻弄する。言葉を重ねるだけこちらが損だ。特に君のような直情的な人間にとっては鬼門と言うべき人種だろう」
「おやおや、これは手厳しい。私はただ久かたぶりのご婦人との会話を楽しんでいるだけだというのに。もっとも私自身の体感時間としては、あれから二十年と言われてもつい先日でしかないわけですが」
「能書きはいい。さっさと始めよう。相対した我々が為すべきことはただ一つだけだ」
 そう言って、一歩を踏み出すアーチャー。
 取り付く島の無いアーチャーの態度に、男は呆れた様子で嘆息を漏らす。
「やれやれ、せっかちな方ですね。ですが、まあよろしい。こちらとしてもあまりサボっていては上がうるさい。ゆえに、ええ、始めましょう。しかし、仮にも英霊同士の果たし合い。名乗りくらい上げて欲しいものですね」
「アーチャー」
「やれやれ、本当につれない御方だ」
 男はうんざりと頭を振り、
「私はヴァレリアン・トリファ。聖槍十三騎士団黒円卓第三位ヴァレリアン・トリファ=クリストファ・ローエングリーン――おっと、これは失礼」


「――今はランサーと名乗るべきでしたね」
作品名:FATE×Dies Irae 1話-2 作家名:真砂