胡蝶夢抄
お釈迦様にこっそりと呼ばれたので、三匹の妖怪たちは集まってきました。三蔵は老子と何やら話していて、彼らに気がついていません。
「彼はいいお師匠さんだったようだね?」
そんな三蔵を指し示して、お釈迦様は三匹に問いました。
「はい!」「はい!」「はい!」
元気の良い即答を聞いて、お釈迦様は嬉しそうに微笑みます。
「うんうん。君たちは君たちのお師匠さんを、大切にするといいよ。彼を見たら師匠と慕い、彼が困っていたら助けておあげ。多分これからはそんなに困ることはないと思うけどね」
「はい」「はい」「…はい」
「私は、もうお師匠さんを慕いたくても慕えないのだ。今は呼び掛けることしかできないからね」
「……?」「???」「それは、なぜなのです? お釈迦様にも、お師匠様がいるのですか?」
「ここにはいないけどね、いる世界もあるのさ。そこでは、私にはやっぱり立派なお師匠さんがいてね。とても美しい人だった。それだけのせいじゃないだろうけど、随分早くにあちらに召されてしまってね。今はそちらにいるから会えないのさ。またそのうちお目にかかれると思うけどね。随分先のことだと思っていたけど、大分近付いてきたかなあ? それはわからないけれど」
それきりお釈迦様は、そのことに関しては、口を開くことはありませんでした。
三妖怪は、お師匠さんに会いたくても会えなくなるなんて事態を、想像することすら出来ませんでした。
ただ、嬉しさと哀しさは双生の兄弟のように対になっていることがあることを、悟浄だけは思い出していました。それは、お釈迦様がおっしゃってることとは、もしかしたら関係がないことかもしれませんが。