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長谷川桐子
長谷川桐子
novelistID. 12267
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【5/4サンプル】スウィート メモリーズ【静帝】

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***

「あ、あの」
帝人は先をいく黒いベストの背に勇気を振り絞って声をかけた。
ちらりと後ろをうかがうように首をめぐらせ、そのまますたすた先をいく大きな背に、おずおずと再度呼びかける。
「あの、病院って、どこですか?」
「…来良記念病院」
「あ、そ、それなら僕知ってます。あの、友達のお見舞いで、行ったことが、あって」
「いや、俺も場所は知ってる」
前を向いたまま静雄は帝人に返答する。それでも、低いがよく通る声はよく聞こえて会話をする分に不自由はなかったけれど、背中だけを見て話すのはなんだか味気なくて寂しい気持ちになった。沈んでいく思考にあわせて、視線もだんだんと下に下がっていく。
「入院したこと、あっから」
「そうなんですか?」
帝人は驚いて下を向いていた顔を上げた。初耳だ。
長じてからは大きな怪我も病気もしたことがないと、以前聞いたことがあるので、おそらくは幼い頃のことなのだろう。
こんなときでも、新しく静雄のことが知れて嬉しい…と思ってしまう。
(あ、……でも)
知っている病院だったら、帝人が付きそう必要などないのではないだろうか? 記憶を失う前ならいざ知らず、今の帝人は静雄にとってそう親しい間柄の相手ではないのだから。
先に帰っています、っていうのもおかしいかな? 同居しているのだと、新羅の説明で理解はしたのかもしれないが、見ず知らずの人物が自分の家に勝手に入るというのは、感覚的に厭なものかも知れない。
「あのっ…」
いつ、帰れと言われるだろう、どうしよう……と思いつつ、小走りになりながら静雄の後に続いていると。
「わっ!」
不意に停止した前をいくひとの背に、対応しきれずぼすりとぶつかる。
「す、すみません…」
たいして高くもないくせに、無駄に擦ってしまった鼻の頭を押さえながら慌てて離れると、後ろを振り返った静雄とサングラス越しに目があった。なにやら険しい顔の表情に、何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのだろうか…? と帝人は途惑いながら静雄を見つめた。
「……悪りい」
「………はい?」
何故謝られているのだろう、と。帝人は静雄の顔を見上げたまま首を傾げた。
「速かったよな、歩くの」
「え、」
わりぃ、こういうの慣れてないんだ。もう一度そう言って金色の頭をがしがしと掻くそのひとを見上げて、帝人は瞠目する。感じた既視感は錯覚ではない。付き合い始めた最初の頃に、全く同じような状況で、同じ言葉を貰ったことがある。
「あ、ありがとうございます!」
「ん」
小さく頷いて再び歩き出す彼の歩幅はほんの少しだけ緩やかなものになっている。その背に続きながら、帝人はじんわりと広がっていく歓喜の心を抑えるように胸の上でぎゅうと拳を握った。記憶がなくても、覚えていてもらえなくても、やっぱりおなじひとなのだと強く思い知った。
大丈夫、不安でも淋しくても、この優しさがあればきっとやっていける。
「それにしても、お前変わってるよな」
「そうですか?」
「俺のこと恐がらねーどころか、一緒に住んでるなんていうし」
「それは―――」
好きだからです。とは言えない。今は言えない。
「し、…平和島さんが優しいからですよ」
「そうかー?」
黒いベストの背を見上げる気持ちは先ほどよりもずっと上向きになっていた。
もういちど、最初から恋ができるのだと。そう考えればお得なのかもしれない。そんなふうに考えて、ほんのりと苦笑を零す。新羅の言うとおり、自分の気持ちは消えていないのだし、静雄の本質が変わったわけではない。
(だったら、もういちど頑張ればいいだけの話だよね)
そう考えれば、不安な気持ちも少しは払拭される。進む先が見えれば、足取りも軽くなった。