灼けつく臭い
臭いが鼻につく。
(人が、焼ける臭い)
嫌というほど体験した。どれだけ避けたいと思っても決して許されることのない咎。
自らの焔が人を焼き、多くの命を奪った。
(罪の―臭い)
「―さ、大佐」
はっ、と目を開いたとき、視界に入ってきたのは金の髪だった。
「ぐぅっ!」
反射的に身じろぎして、熱をもった激痛に醜い声がもれる。
「おい、動くなよ!大火傷なんだぞ」
「鋼の…」
「うなされてたぞ」
「ああ…君が起こしてくれたのか」
自嘲気味にロイは笑う。
そんな顔を横目に見ながら、エドワードは濡れたタオルで額の汗をぬぐってやる。
「申し訳ないね…」
「ほんとに大丈夫なのかよ?それ…」
「これくらいじゃ死なないさ」
そうか、この臭いであの夢を見たのか…。
イシュヴァールでの自らの非道。
割り切れない思い、それをどうすることもできず順じた忌まわしき行為。
それが自らの肉が焼けた臭いで蘇る。
罪もない人々を一瞬で、焔にのみ込ませた。
苦悶に歪めた表情。目を閉じると脳裏に浮かんで消えることは無い。
―抱えねばならない咎。
―受けねばならない罰。
「大佐?」
心配そうなその声に導かれてロイは瞼をゆっくり開く。
「面倒をかけたな、鋼の…」
手繰るように指を動かすと、ひんやりとした手にそっと包まれるのがわかった。
「嫌な夢でも、みたのか?」
「大丈夫だよ」
自分を覗き込むその瞳をロイは見上げた。
眉を歪めて、ああ、彼の方が泣きそうな瞳をしている。
こんなに近くにいる彼でさえ、自分の手で守ってやることができない。
(私は、本当に無能だな)
「大佐、俺に何かできることあるか?」
エドワードの声が胸にしみていく。
自分はこんな幸福を得られる存在ではないのに。
「手を…握っていてくれないか」
欲深い男だ、ロイ・マスタング。
どれだけ罪深いと分かっていても、この手を離すことができない。
「ああ、側にいてやるよ―今だけは…」
「すまない…」
「謝るなよ。辛いのは、大佐だろ」
そう言って、エドワードは微かに笑った。
一体誰に祈ったらいいのだろう。
私は何も知らない彼を、手放すことができない。
一体誰に許しを請えば、この罪を裁いてもらえるのか。
知る者がいるのなら、教えてくれ。
「おやすみ、大佐…」
エドワードの声が遠のいていく。
再び目を閉じた後、目尻にそっと彼の指が触れ、すぐはなれた。
私は泣いていたのだろうか?
過去に自らが犯した罪は消えない。
だが
だからこそ
生きてやらなければならないことが ある。