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吉野ステラ
吉野ステラ
novelistID. 16030
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灼けつく臭い

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身体を高熱が蝕む。
臭いが鼻につく。
(人が、焼ける臭い)
嫌というほど体験した。どれだけ避けたいと思っても決して許されることのない咎。
自らの焔が人を焼き、多くの命を奪った。
(罪の―臭い)

「―さ、大佐」
はっ、と目を開いたとき、視界に入ってきたのは金の髪だった。
「ぐぅっ!」
反射的に身じろぎして、熱をもった激痛に醜い声がもれる。
「おい、動くなよ!大火傷なんだぞ」
「鋼の…」
「うなされてたぞ」
「ああ…君が起こしてくれたのか」
自嘲気味にロイは笑う。
そんな顔を横目に見ながら、エドワードは濡れたタオルで額の汗をぬぐってやる。
「申し訳ないね…」
「ほんとに大丈夫なのかよ?それ…」
「これくらいじゃ死なないさ」
そうか、この臭いであの夢を見たのか…。
イシュヴァールでの自らの非道。
割り切れない思い、それをどうすることもできず順じた忌まわしき行為。
それが自らの肉が焼けた臭いで蘇る。
罪もない人々を一瞬で、焔にのみ込ませた。
苦悶に歪めた表情。目を閉じると脳裏に浮かんで消えることは無い。
―抱えねばならない咎。
―受けねばならない罰。

「大佐?」
心配そうなその声に導かれてロイは瞼をゆっくり開く。
「面倒をかけたな、鋼の…」
手繰るように指を動かすと、ひんやりとした手にそっと包まれるのがわかった。
「嫌な夢でも、みたのか?」
「大丈夫だよ」
自分を覗き込むその瞳をロイは見上げた。
眉を歪めて、ああ、彼の方が泣きそうな瞳をしている。
こんなに近くにいる彼でさえ、自分の手で守ってやることができない。
(私は、本当に無能だな)
「大佐、俺に何かできることあるか?」
エドワードの声が胸にしみていく。
自分はこんな幸福を得られる存在ではないのに。
「手を…握っていてくれないか」
欲深い男だ、ロイ・マスタング。
どれだけ罪深いと分かっていても、この手を離すことができない。
「ああ、側にいてやるよ―今だけは…」
「すまない…」
「謝るなよ。辛いのは、大佐だろ」
そう言って、エドワードは微かに笑った。

一体誰に祈ったらいいのだろう。
私は何も知らない彼を、手放すことができない。
一体誰に許しを請えば、この罪を裁いてもらえるのか。
知る者がいるのなら、教えてくれ。


「おやすみ、大佐…」
エドワードの声が遠のいていく。
再び目を閉じた後、目尻にそっと彼の指が触れ、すぐはなれた。
私は泣いていたのだろうか?

過去に自らが犯した罪は消えない。
だが
だからこそ
生きてやらなければならないことが ある。
  
  
  
  
  


  
作品名:灼けつく臭い 作家名:吉野ステラ