二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
吉野ステラ
吉野ステラ
novelistID. 16030
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

空に響くは君の声

INDEX|1ページ/1ページ|

 
君の声が聞こえたと思ったんだ。

毎日吹雪の中佇んで、役割を失くした手を見つめて。
私の心は行く場所も戻る場所も依るべきところもなく、どこか違う世界から
自分を眺めているようだった。
時折、記憶をなくしたアルフォンスに連絡をとっても、君に繋がる情報はなく
日に日に手からなにか大切なものが零れ落ちていくようだった。
だが、リオールとセントラルで異変があったと知ったとき、ふと脳裏に君の姿が閃いた。
確信はない。だが「わかった」。
私は行かなくてはならない―――。

『大佐』
どれだけ時が流れても、君の強い眼差しと怒るように呼ぶその声が、色あせることなく
私の中でまだ輝いていたから。
誰にも聞こえなかったかもしれない。
だが私には
君の声だと、すぐ、わかったよ。


まったく可笑しいな。私はこんなに弱い人間だっただろうか。
君の存在が、この世界に、私の近くに来ていると感じた途端に
どこかに忘れていた原動力が、やっと働き始めた。
(怒らないでくれよ、鋼の)
この国を護ること、少し忘れていたようだ。
いつの間にか、君の存在に甘えすぎていた。



空の中で君を見つけた。
君が自らを犠牲にしてまで助けたかった弟と一緒に、変わらない金の髪とゆるぎない瞳
をもったその青年。
背丈は成長していても、変わらないその面影。
見つけた。
「大佐!!」
夢の中で、記憶の中で何度も聞いた声が、今間近で聞こえる。
あまりにも自然に、あまりにも当然のように自分の中に入ってくる声。
「その眼帯、似合わねぇなぁ!」
昔と同じ軽口に、心臓がどくん、と動き出す。
離れていた時間などなかったかのように、並んで走り出すことができる。

「生きていると思ったよ」
鋼の
思っていたのに、実際に目にするまで信じることができなくて、内に篭っていた私は
きっと君に怒られるだろう。
心から反省するよ、鋼の。君が帰ってきたとき、堂々と対面できなければ意味がなかった。
(わかっている)
私は、この国と君を護る。そのためにここへ来た。
もう一度前に進むために。



「俺は戻る」
そう断言したその意思の強い瞳。
引き止めようともがくアルフォンスを抱きとめながら、何よりもそれをしたかったのは自分だった。
君はまた私を置いていくんだな。
決して声には出せない思い。
ガコン、と金属があまりにあっさりと切断され、私と君の距離が離れていく。
そのとき
(大佐)
言葉にはしない君の声が耳に届いた。
瞳が通う。
金の髪を風にはためかせて、少年から青年になったその姿が、まっすぐにこちらに向く。
(大佐、俺もこの2年間甘えていた。もう、甘えるのはやめるよ。
 この国と弟を護ってくれ。俺の分まで)
(鋼の…)
せめてその身体を一瞬だけでも抱きしめたかった。
けれど同時に、それをするともうこの手は彼を離せないだろう。
そんな私の思いを知ってか知らずか、ふと彼は眉をゆがめながら微笑んで。
そして背を向けた。
鋼の。君は卑怯だ。
君を大切に思うすべてのものを置き去りにして。
そうして去っていく。
だが、分かっている。この国を護ること、それが私の役割。
ぎり、と歯をかみ締めた。
「兄さん!嫌だ!」
捉まえているアルフォンスの、まだ幼さの残る声が耳元に響く。
その腕を緩めた。
「アルフォンス、行きなさい」
「大佐!?」
アルフォンスが驚き振り返る。
その大きな瞳に、微笑した。
まっすぐな瞳は、本当に兄とよく似ている。
「君たちが幸せでいられることが私の望みでもある」
だから彼の側にいてやってくれ。
私の代わりに。
「私が門をとじよう」
「大佐…」
「行け!」
どん、とアルフォンスの背中を押した。
「ふたりで、生きるんだ」
それが私の望み。
鋼の。君がひとりのままだと、私は心配で仕事が手につかないからな。
弟と共に往け。
私はここで、仲間たちと共にこの国を護ろう。
それが君と私との約束だ。


たとえ身体は離れていても、君とともに在る。
いつかまた会える日がくる。
そのときには胸を張って君を迎えると、
誓うよ。   
    
  
  
  
  
  
作品名:空に響くは君の声 作家名:吉野ステラ