始まりの雨
面白い兄弟を見つけた。
そう告げた彼の瞳に宿った光は、いつもとは違っていた。
それは、何かの延長でもあり、始まりだった。
「今度、会わせてくれよ」
軽く頼んだ口調は、半分本気だった。
これからの彼を守る人間は少しでも多い方がいいから。
彼が自分の懐に誰かを抱え込むというのなら、自分はそれを見極めなければならなかった。
「そのうち会う機会があるだろう。ヤツが立ち直ってここまで来れば、の話だけどな」
そう言って彼は笑った。推測を語るその笑みには、だが確信のようなものが含まれていて。
「楽しみにしてるよ」
今までとは違う何かを感じた。
彼――ロイ・マスタングにそんな表情をさせる人物。その記憶を、俺は頭の片隅に留めた。
それは、3年前の話。
金色の髪の毛が目の前で翻った。
機械鎧の右手を破壊され、その身体はぼろぼろで。
けれど弟を見るその眼は、大切でたまらないという想いが込められた、少年。
錬金術師の連続殺害事件について聞いたとき、ロイは突如、目の色を変えて兄弟を探させた。
ぐっと握り締めた拳。普段は使わない銃を片手に、彼は俺の知らない誰かを探して駆け出した。
慌てて後を追う彼の部下に目もくれず、降り注ぐ雨にも気付かず、走って。
その先にいたのが、この少年だった。
「危ないところだったな、鋼の」
「大佐!」
身体は小さく、幼い。けれど意志のある瞳。
右腕は壊されても、彼自身はどこも欠けていない。その強さ。
真っ直ぐで、ふてぶてしい態度。
場違いにも、思わず笑みがこぼれた。
それはまるで、昔の誰かのようで。
3年前、おまえが見つけたのは彼なんだな、ロイ。
おまえの庇護がなければ生きられないような人間なら困ったものだと思っていたけれど。
どうやら違うようだ。
一目でわかる。彼は自分で道を選び、歩んでいく人間。闘える人間。
必要なときには、おまえの援けになるだろう。
そしておまえも
彼を援けようとしている。
(それが分かれば、充分)
「おまえなぁ援護とかしろよ!」
傍観していた俺を咎め、耳慣れた気安い口調がとんでくる。
それはもう俺の知るいつものロイ・マスタングで。
(本当に面白いな)
あのロイが、彼らに対しては保護者面をして面倒を見ているのだから。
近づいてきた彼の肩を横から抱くように、腕を回した。
「ヒューズ?」
「ったく・・・。おまえの身を案じて東にとんで来たってのに。気にかける存在がまた増えちまったな」
そう言って初めて、ロイは気がついたようにこちらを見た。
「ああ、ヒューズ。彼らが鋼の・・・」
「わーかってるって。ま、何か必要があったら任せとけ」
背中をぽん、と叩いて彼から離れた。
口に出さなくても、おまえの思いは、よくわかったよ。
「・・・頼む」
後ろから小さく声がかけられた。
まったく、おまえは俺に頼みごとをするのが本当に上手い。
心配するな。
おまえにとって大切なものは、俺がちゃんと守ってやる。
そうしておまえを支えていくのだと、俺は決めているから。