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贅沢な身体

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ゾロの中の雄が綻びていく瞬間を見るのが好きだ。
 
 例えばゾロの左の耳たぶに並んだ三つのピアスをひとつひとつ外していくとき。薄い耳朶の縁に並んだピアスホールに指で触れると、くすぐったそうにゾロが首を振って抵抗する。俺は意地悪い気持ちで、指で舌で何度もそこを辿る。
 例えばセックスが終わって、ゆっくりと鳶色の瞳の奥に灯る淫靡な灯りが消えていくとき。乾いていくゾロの熱い精液をできることなら拭いたくない気持ちで、獣の姿勢を解いて、肌に纏った熱を冷ましていくゾロを傍でいつまでも眺めている。
吐き出した性欲に満足したゾロは、緩慢な仕草で俺の隣に仰向けになると、眠りに落ちていく。そして幼い寝顔を俺に見せる。ゾロの寝息を確かめるために、奴の顔の横に両手をついて口元に耳を近づける。そのまま肉厚な唇に俺の唇を重ね、半開きの口腔に舌を忍び込ませる。苦いのは先刻、俺がゾロの口内に放った精液の味。
 俺は徐々に唇を下へ落としていく。尖った顎、喉もとに浮いた丸い骨。鎖骨の隙間にあるクレーターのようにへこんだ部分に鼻を押し付けると、微かに甘い体臭と汗の混じった匂いがする。胸がじんと痺れたようになる。
 ゾロの身体に覆い被さる体勢で、俺は鍛えあげられた筋肉を上下に分断する、深い傷口に指で触れていく。白い肉が浮き上がるそこを、癒すように人差し指で辿る。分厚い胸が空気を含んで膨らみ、また空気を押し出して萎む。
 白いシーツに横たわった身体は、俺のためだけに用意された贅沢な食事。俺は誰もいない部屋で、ゾロの身体を味わう。目を閉じたゾロは、まるで俺の舌にくるまれて眠る小動物のようだ。
 俺の指はゾロの腹筋を辿り、その下の茂みに辿り着く。俺はそっと唇をそこに埋める。ゾロの体毛は薄い。細かく固い毛の塊に俺は何度も口づけをする。柔らかい性器にも指を這わす。
 「何やってんだよ、てめえは・・・」
 目線だけを上げると、ゾロが目を覚ましていた。無理やり眠りの底から連れ戻されたゾロは、不満そうに右手でごしごしと目を擦っている。俺はそれを無視して、ゾロの草臥れた性器の形に沿って唇を這わせていく。
 「おい、やめろって。もう絞っても一滴もでねえよ」
 ゾロは俺の頭にその大きな右手を置いて、俺の悪戯を止めようとする。それでも指と舌で輪郭を辿り、先端の膨らみを愛撫していると、ゆっくりとそれは固さを増してくる。俺は夢中で動きを持続させる。ゾロは溜息のような吐息をひとつ洩らし、俺の頭に置いた手で、俺の髪を撫でるように梳き始める。
 俺はゾロの足の間から顔を上げると、その右手を取り口元に運んだ。シャツを肩に掛けただけの姿で、ゾロの足を跨ぐ格好で膝を立て、俺は食事の最後のデザートを食す気持ちで、無骨な骨格を持つその手を味わう。一本一本の指を順番に唇に含み、指の間に舌を這わせる。ゾロは眉を顰め、どこか切ないような表情でそんな俺を見ている。その視線に煽られた俺の下腹部は、再び熱を持ち始める。
 「うまいかよ」
 「うまいぜ」
 「・・・さっきあんなに食っといて、まだ食いたりねぇのか」
 「ああ、足りねぇな」
 俺はゾロの目を見てそう答えると、奴の手首に浮かび上がる青い静脈に口づけをする。
 「俺にも食わせろ」
 ゾロはそう唸るように言って、俺を引き寄せてそのまま身体の下に巻き込んだ。鋭い眼光をその双眸に取り戻したゾロは今、一匹の雄に戻っている。俺は額にかかる前髪の間から、目を細めてそんなゾロを見上げる。
 
 俺の身体が腐って落ちてしまう前に、骨までゾロに食い尽くされることを願いながら。
作品名:贅沢な身体 作家名:nanako