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コンビニへ行こう! 後編

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薄暗いバックヤードを見回すように尋ねた店長に手を振り、帝人は臨也の手を引いて控え室を出る。また雷がなったようだが、今度はさっきほど気にならなかった。
「お疲れ様、すまなかったね。閉店作業はやっておくから、帰っていいよ。もう少し待てるなら車で送るけど……」
「あ、大丈夫です、迎えが来たので」
「ああ、いつものね」
「はい、いつもの」
深々とため息を付いた店長が、ちらりと臨也を一瞥し、それからもう一度ため息を吐いた。いまさらながら、自分はこの人にどんな印象を持たれているのかと疑問に思う態度である。
「あー、それじゃあ君のお友達に、レインコートを貸すから持たせてあげなさい。外はもう傘は無意味だ」
「わ、ありがとうございます!臨也さん、よかったですねえ」
にこにこと言われて、そうだね、としか返すことはできなかった。差し出された半透明のレインコート……こんなものを着たことは今まで一度もないのだけれど、帝人も青いレインコートを羽織っているので、おそろいだと思えばそれもうれしいかも知れない。
「ここまで徒歩で来たんですよね?」
今更思いついたとでも言うように問いかけらて、臨也は頷きながらレインコートに袖を通す。傘をさして出てきたけれど、十三歩で傘はだめになってしまったのである。
「それじゃあ店長、お先に失礼します!」
「はい、また次の時にね」
なんて真面目に挨拶を交わして、帝人は従業員用の出入口から意を決して外に一歩踏みだしたのだった。


暴風雨の中へと。



従業員用出入口は、狭い路地から入ってこなくてはならないため、あまり使い勝手が良くない。駐輪場が近い為、自転車通勤のバイトやパートさんはよく利用しているが、帝人のように徒歩で通ってくる従業員は自動ドアから店内に入って従業員用ドアからバックヤードに入るのがいつものことだ。もちろん、帰りもそうやって出て行くので、実はここを利用したのは初めてだったりする。
狭い路地を抜けたところが、普段通い慣れた道のはずなのだが、凄まじい雨でよく前が見えないほどだ。
「臨也さん、手!」
「は、はい!?」
「手!つながないと、はぐれちゃいそうなので!」
「あ、うん、わかった!」
雨の音に負けないように大声で怒鳴りながら手を差し出すと、臨也は一瞬呆けた後、言われるままに帝人の手をとった。雨にぬれて冷たい手のひら同士を合わせる。レインコートで服はガードできても、指先まではさすがに無理だ。
「こっち!近道だから!」
臨也が、やっぱり大声を張り上げて帝人の手を引き、歩き出したので、帝人はそれに黙って付いていくことにした。臨也の家までの道のりなんて、臨也に任せれば間違いないに決まっている。
「すぐにつくからね!」
と、いつになく頼もしい声を上げている臨也を見て、帝人はどこか安心している自分に気づいたりもした。なんだかんだで、やっぱり心細かったのだろう。臨也が店に来てくれて本当によかった。どおん、と鼓膜を揺るがす雷鳴も、視界を染める雷光も、いつもより怖くないような気が、たしかにしている。
それに。
帝人は、帝人を庇うようにして前を歩いている臨也の背中を見つめた。さっき停電になった際、思わず抱きついてしまったが、そのあと一瞬変な空気になってしまったのを、忘れたわけではない。
いや、ごまかさずに言うならば、一瞬……キスされるんじゃないか、なんて思ったのだ、あまりに真顔で見つめられたから。
タイミングよく携帯がなったから良かったものの、あのままだと危なかったかも知れない。そういうことは、流されてすべきじゃない、と理解している。それにしても、だ。
まさか臨也とそんな空気になるとは思っていなかった、というのが本音だ。
誤解を恐れずに言うならば、彼に好意を抱かれているということに関しては、正直疑う事もできないほど明白なことだった。それが恋愛感情と言われるものなのか、という問に関しても、おそらくそうなのだろうと言えるくらいには気づいていた。
だってあまりにも、分かりやすい。
けれど彼と一緒にいる時間はいつもくすぐったいほどぎこちなくて、それが心地良く思えたから、つい、今まで。


有耶無耶にしてきちゃった、な。


軽く息を吐いて、繋がれた手のひらを見つめる。いつになく力強いその手を。
臨也の家についたら、確かめなきゃいけない、と思う。
彼の感情がどのようなものなのかを。そして……さっき、暗がりで抱き合ったときに感じた違和感の正体を。
それはほんの少し気が重いのだけれど。臨也をまた涙目にさせてしまいそうで。


「臨也さん」


小さく呟いて呼んだ名前に、その人は振り返らない。
けれども雨に濡れた髪の隙間からのぞく耳たぶが、じわりと赤く染まったような気がした。


作品名:コンビニへ行こう! 後編 作家名:夏野