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<5/4scc>下らない夢ばかり見ている<sample>

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ああ、夢か。
 
静雄は先程まで、中途半端にあいた次の仕事迄の時間を潰すために自室で仮眠を取っていた筈だった。
 
しかし、今彼は公園の古びたベンチに腰掛けている。
 
白い雲がゆっくりと流れる空からは容赦ない日差しが降り注ぎ、ベンチの後方に植えられている樹木が申し訳程度に作った日陰の隙間から静雄の肌に熱を伝えている。雑草が生い茂る公園には小さな錆の浮いたブランコと色が剥がれ落ちたラッコの石像しかない。
 半ばやけくその様に鳴き喚く蝉の声以外、昼間の公園に音も風もなく、静寂といっても差し支えないほどだった。
 見覚えのない公園で静雄はじんわりと汗をかいていた。こんなにもはっきりと彩られた夢を見たのは初めてだったが、夢だと気がついているのに目が覚めないのも初めてだった。更に困惑せずに落ち着いてこの状況を受け入れているのも些か奇妙だ。夢であるのに汗が背中を伝う感触が妙にリアルで、きっと自分の寝ている現実のソファは汗でべっとりと濡れているのだろうと想像し、ため息をひとつ。しかし目を覚まさずにこのまま不可思議な体験に身を任せようかと思っていた矢先―――。
こちらに向かってくる、足音が聞こえた。
 公園の入り口に目をやれば、小さな麦わら帽子が上下にゆれている。蜃気楼なのか夢特有のもやなのか、時折ゆれる緑の景色の中で、麦わら帽子だけが意思を持って動いているようにみえる。よくよく目を凝らせば、それは幼い子供が被っているものだった。しかも、とても見覚えのある顔立ちの少年だ。
 少年は公園に入ってくると、こちらに気がついたのかぴたりと足を止める。暑い中全力疾走してきた所為かほんのりと頬が赤い。そのくせ肌は白いものだから余計に頬の赤みばかりが目立って、更に幼く見せた。短い前髪で露にされた額は傷ひとつ無く、太陽の光を詰め込んだ黒い瞳ははっきりと輝いている。
まさか―――いや、いくらなんでもそれは無いだろう。

静雄はごくりとつばを飲む。自分の夢がカラーでこんなにもはっきりとしているのにも驚きだし、見たことも無い公園を夢に描けるほど想像力が豊かだったのにも驚きだ。しかし一番驚いているのは、数メートル先からこちらを伺うようにして立っている少年の外見が、帝人にそっくりだということだった。残念ながら、静雄の視力は夢の中でも変わらない。いつもと同じようにクリアな視界は公園の端から端まで見渡せた。だから、多分あの少年の顔も見間違えてはいないだろう。
 
夏の日差しの下、まるで輝いて見えるのはやはりこれが夢だからなのか。一歩一歩、好奇心と不安を綯い交ぜにした表情のままこちらに歩み寄ってくる少年の、柔らかそうな身体から十五歳の割に華奢な帝人を想像することは容易かった。静雄は今まで帝人の幼いころの写真を見た事もなければどんな幼少時代をすごしたのかなど話を聞いたこともない。それなのに、自分の夢に明らかに帝人の幼い姿と思える少年が出てくる事実に混乱した。頬を伝う汗を拭う気すら起きない。
 
こくり、唾液を飲む、小さく咽が鳴る。腰かけたベンチの目の前までやってきた少年が口を開いた。

「お兄さん、誰ですか?」