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不器用で不格好な

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言葉が足りないのではなく、無い、のだと思う。
 自分でモテないと豪語しているだけあって、確かにそれでは女の人は逃げるだろうな、と妙に納得さえしてしまう。
 僕でさえ確かな言葉が欲しいと思うのだから、何よりもそういう事を気にする女性の立場からしてみれば、それはそれは不安で堪らなく、そして何と詰まらない男だろうかと思われても、それは仕方の無い事だと思える。
 ―――この男がもう少し踏み込んできてくれたなら。あと一寸だけ、勇気を出してくれさえしたのなら。
 そう思う事は常にあれど、それを要求する術も言葉も持たない僕は、唯唯じいと息を潜めて見守るだけだ。
 今はそれでも良いと思う。諦念の情かと思いきや、けれど諦めた訳ではなく。
 いつかいつかと願いながら、どうかどうかと想いながら、そうして言葉を紡いでいく。
 弱くて狡くて誰よりも優しい男の為に。男が言えない代わりに僕が、と。



 ぎゅうと抱きしめられて、またかと思う。
 泣きたくなるくらい不器用な男だ。いい大人のくせに、どうしようもなく情けない。
 こうして不恰好な姿を曝け出すくらいなら、いっそ言の葉を紡いで吐き出した方が、どんなに楽か。

 彼は女にモテないと言った。付き合っても、直ぐに別れてしまうのだと。
 それはそうだ。彼は「好きだ」とも「愛してる」とも云わないのだから。
 意思表示をしなければ、見限られ捨てられるのは目に見えているだろうに。
 それがこの男なのだと思う度に、愛しさと切なさが交じり合う。
 それと同時に、一時期でも男の相手となった女性に、同情と安堵、そして少しの怒りと。
 毒されていると思う。莫迦だとも思う。けれどもそれでも、と思う自分は嫌いじゃない。
 本当に、どうしようもない。



 更に強く抱きしめられて、意識が浮上する。
 相も変わらず言葉は無い。けれどこの男の行動だけは、それに反比例するかのように、素直で雄弁だった。
 言の音を紡げない代わりに、全身で訴える。まるで幼い子供の様だ。
 緩んだ涙腺を必死で押さえ、応える様に男の背中を掻き抱く。

 男にとって、その言葉がどれほど重いものなのか、僕は知っている。
 臆病だと罵られても、それでも言えないその恐怖や葛藤を、今迄付き合った事のあるという彼女達は、果たして知っているのだろうか。
 掌の熱さ。息の紡ぎ方。抱きしめる腕の強さ。
 その全てで持って伝える無言の言葉に、少しでも、気付いただろうか。
 けれどだからといって、彼女達を嘲るつもりも激昂する余裕も無い。
 何よりも蔑むべきなのは、それを知っていながらそれでも確かなものが欲しいと強請る、僕自身なのだから。
そこまで解っていても欲は止まる事無く、日に日に肥大していく。どうかどうか、いつかいつかと願いながら、虎視眈々とその機会を伺う。
 その言葉がどれほど男を苦しめ、口にしたが最後、現実味を帯びて彼に圧し掛かり苛ませるかなんて、嫌という程理解している。
 それでも想う事を止められない。否、寧ろ、許せないとさえ思っているのだ。
 受け止めて、受け入れる覚悟は当に出来ている。それなのにそれを与えられないのは、心底我慢なら無い。
 それをするだけの人物には至らないなどとは言わせない。
 覚悟に見合う、覚悟が欲しい。
 だからもう少しだけ、あと少しだけ、境界線を越えて一歩踏み込んできさえしてくれれば。
 どれくらい時が経とうとも構わない。だからどうか、と。
 願いと想いをありったけ込めて、男と同じ様に無言で抱きしめる腕に力を込めた。
 ―――伝わる様に、と。


end.
作品名:不器用で不格好な 作家名:真赭