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Humpty Dumpty

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 久しく見る事など無かった、紅い夢を見た。黒と赤が覆いつくす世界で、ぽつりと白がひとつ。ただそれだけの夢。最高に気分が悪い。
 ふうと溜息一つ溢して、重たい身体を起こした。ぐっしょりと寝汗で濡れた甚平に、くそったれ、一言文句を垂れて、がしがしと頭を掻き毟る。

 硝子の向こう、透明な壁越しの空は憎たらしいほど晴れ渡っていて、何処か居た堪れなくなった。


「…で、何でこうなる」

 嫌悪も顕わに眉目を歪めると、目の前の子供二人は何を今更、と言わんばかりの顔を銀時へ向けた。

「今日は天気が良いですよ」
「だからそれが何」
「絶好のお散歩日和ネ!」
「お前等だけで行けばいいだろ」
「何言ってんですか。こんな天気なのに」
「こんなだから、だろ」
「私、皆で散歩したいアル」

 下から見上げられる二つの眼差しと、裾をぎゅうと握る掌に、苛立ちと罪悪感が募る。正直、あんな夢を見た後で、こんな快晴の下出歩くのは勘弁願いたい。されど家族同然とも云える彼らの気持ちを無碍に扱うことはどうにも憚られて、子供は聡い生き物なのだと、改めて思い知らされた気がした。
 苦笑を貼り付けたまま、けれどもその気持ちは汲んだ事が伝わるように、ぽんと彼らの頭を叩く。途端広がる笑みに、少し、燻った心が晴れた気がした。

 そうして穏やかに午後は過ぎ去る、筈だった。
 二人のお蔭で随分と落ち着いた心とは裏腹に、突然、ゆるりと吹く風に混じって、ツンと独特の、覚えのある臭いが銀時の鼻腔を突いたのだ。微かな異臭は、だから誰も気が付かない。
 胃もたれをおこしたかの様なムカつきを覚えて、そしてそれは意識し始めるとどんどん重みを増していく。臓腑が焼ける様な錯覚さえ感じて、知らず、銀時は腹に手を当てていた。
 じゃり、と砂を踏む音を切欠に、暗い路地裏を見据える。
 この先は、きっと今の自分には鬼門だ。
 ―――そう思うのに、足は勝手に動き出していた。


 不満を訴える子供二人を先に帰らせ、狭い路地裏へ足を踏み入れると、矢張り面白くもない光景が広がっていた。
 酷い異臭が蔓延している一角、目を凝らしてやっとの薄暗さの中で、けれどもどろりと拡がる赤だけは、何故かハッキリと見て取れる。
 その真ん中に突っ立っている人物が、己の存在に気付いて身を捩った時、ぱしゃりと赤が弾けて靴に飛び散った。
 くろに、あか。
 どこか鮮明に映るソレに、くらくらと目眩がした。そんな己を叱咤し、渇いた唇をぺろりと舐める。
 そうして

「大串君ってば、こんな真昼間からお仕事?」
「他に何に見えるってんだよ」

 平静を装って問い掛ければ、にべもなく応えを返される。キツイ臭いに鼻がもげそうだ。
 互いに表情が見えないのを良い事に、銀時はあからさまに顔を歪めた。

「頑張るねぇ、」

 思わず零れた言の葉は、然し相手はきちんと聞き取っていた様だ。暗闇の中鋭くなった眼光に、青いねぇと胸の内で哂う。羨ましいとは、決して思わない。

「こいつら、死んでんの?」
「あ?見りゃ判んだろ」

 またしても同じ答えに、目を眇めて再度、問う。

「もう、元には戻んねぇの?」

 この状況を見て今更何を、と言わんばかりの空気を纏う黒服の男を目の当たりにして、ずしりと肺が重くなった気がした。
 ―――果たして彼は、ソレをきちんと理解しているのだろうか。
 壊れたものは、もう二度と元には戻らないというのに。

 大事なものがある。大切なものがあった。それを護る事に異議は無い。異論も無い。その大事なものの為に、己の意思を多少捻じ曲げる事も、ある種の信念と云えるだろう。
 だからこそ、思うのだ。
 本物の戦場も知らぬ若造が、誰彼の為と刀を振り回すその意義を。

「若い、ねぇ…」

 ぼんやりと呟いた言葉は、今度は届かなかった様だ。銀時はそれに少し、安堵した。

「じゃあ善良なる一般市民はこれで立ち去るとすっか。じゃーな、大串君。お勤めご苦労さん」
「は、オイ、ちょ、万事屋?」

 己の急な切り替えに戸惑いを隠せない黒服の男に一瞥もくれず、銀時は暗闇の巣食う路地裏を足早に抜け出した。
 身体に付き纏う死臭に当分家には帰れそうにない事を悟り、その原因を作った男に少なからず苛立ちを覚える。最も、それは甚だ見当違いだという事も承知の上で、だ。

「折角あいつらが気ィ利かせてくれたってーのに。畜生め」

 踵を返すその刹那、ちらりと後ろへ視線を送ると、あかもくろも溶け込んだ闇だけが、飽和して其処に佇んでいた。
 ―――あの男も、呑み込まれてしまっただろうか。
 思い、そっと目を伏せる。
 ―――莫迦らしい。
 あまりの短絡的思考に、哂いさえ込み上げてくる。

「元には、戻せないのに、」

 自嘲に似た笑みを浮かべて、それでもあの男だけは、そんな風にはなって欲しくは無いなあと、ぼんやり心の片隅で、そんな事を銀時は想った。




ハンプティ・ダンプティが 塀の上
ハンプティ・ダンプティが おっこちた
王様の馬みんなと 王様の家来みんなでも
ハンプティを元には 戻せない


 それでもきみを、


end.

*戦場=いくさば で。
作品名:Humpty Dumpty 作家名:真赭