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願ってもいない/ひとまわり

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・願ってもいない(相生祐子)

時定高校の朝は比べたことはないけれど、ほかの高校より穏やかな空気が流れている気がする。そしてその空気を今壊さんとしているのがこの私だ。あと、あと5分二度寝の時間を短くすればこんな事にはならなかっただろう。スカートが前後ろでも直す暇はない。例え、そのプリーツがテカテカになっているのを今朝履く時に発見した事実があろうとも。
視力が極めて良い私には、見える。今先生、しかも今日に限って担任が校門を閉めようとしているのが。私の足の速さを舐めて頂いては困る。
「まだ、まだ閉めるには早いですわよおおおおおおお」
何故お嬢様言葉になったかはわからないが、全力で地面を踏みつけ、足を前に出す。叫んだ声は少しは聞こえる距離だったらしく(その地点は現在通過した)、担任が辺りをキョロキョロと見回している。今の私には前しか見えていない。それは良い意味でも悪い意味でもだった。


「相生、危ない!」
意味が伝わる筈がなかった。だって、前しか見ていなかったのだもの。
左からなにかほの温かいものが私のこめかみに当たる。それはみおちゃんの銜えたトーストだった。
「…え?みおちゃんって朝ご飯派じゃなかったっけ?」
唇についたバターを舐めとりながら言った。みおちゃんが最初に口走った言葉は陳謝の言葉じゃなかった。
「ゆっこ、そっち?」



・ひとまわり(東雲なの)

私がお茶を汲む時間は、私は決めているつもりはないのだけれど決まって2時53分に台所に立ち、3時ジャストにはかせの前にお茶を置く、というのが決まりになっている。はかせに一度聞いてみたことがあるがそういった事はプログラミングしていないという。
一度決めたことは時間が揺らがないように出来てしまったのか、と私は納得することにした。カチ、と時計の音がこんな話をしていると気になったので首を文字通り回すと2時40分、と時計が指示していた。もう少しで41分といったところだろうか。
ああ、こんなところまできっちり見たくないのに!はかせみたいに私はもう少しのんびり生きたいのだ。命の期限があるはかせがどうしてこんなにゆるやかに人生を楽しんで…生きているのにどうしてロボットの私はこうして暗い感情をまとって動いているのだろう。
今日はねじがいつもより二周多く回った事を、東雲なのは知らない。