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春節

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初詣など殊勝なことからは、遠ざかってしまって久しい。そもそも神だのみなど自分のキャラではないし、わざわざ混雑の中に身を投じてよろこぶような馬鹿でもない。毎年、テレビで見る初詣のにぎわいにぞっと背筋を凍らせる。そう、自分は。横にいる馬鹿はどうだかしらねェが。
「金さんあけおめです!」
だから、今なんでてめぇが初詣に身を投じているのか甚だ疑問だし、しかもなんでホスト集団に囲まれてんだよ……。男同士の初セックスは姫始めじゃなくて殿始めって言うんだって☆とのたまった金時に流されて、一昼夜がっつりと仕込まれた。ぐったりと寝付いていた今朝方に、この、一番避けたかった場へ鮮やかな拉致を決め込まれたことは、思い出すだけで頭がぎりぎりとする。犯人の馬鹿は俺の肩を憎々しくも抱き寄せ、出会う同僚ホスト全員に自慢してまわっている。初詣や挨拶なんてものはそっちのけだ。さっきまでで軽く十回はその腕を凪払ったが、二十回を越えたところで数えることを放棄した。今のでもう何度目だろう。
かぶき町にほどちかい、花園神社は常に人の絶えぬ場だが、元旦の混雑はより一層混雑さを増す。場所柄、お水の連中の参拝客が多くあるが、よりよってのそこでの初詣。しかも、金時の言うには「ここにはちんこが奉られているから、俺と晋ちゃんの夜の性活を祈願しなくちゃね!」ということなのだ。せめてこの頭痛を宥めてくれる社寺へ病気平癒を願って初詣といきたいところだ。マジで頭が痛い。
「このうすら馬鹿が消えてくれますように」
 五円玉を放り投げて、わざと聞こえるように声にだして祈願すると、予想通り金時がわかりやすい反応をしめす。
「ずっと! 晋ちゃんと! 未来永劫! 添えとげられますように!」
 他の参拝客にも聞こえんばかりの声を張り上げて、金時からいろんな意味で痛いしっぺ返しがあった。周りの視線が痛い……。加えて、金時の同僚共の冷やかしとも悪ノリとも言える野次も痛い……。そしてなぜ照れる金色毛虫。何がエヘヘだ……。
「晋ちゃんとずっといられるようにお賽銭は、諭吉さんにしたよ」
 やっぱり馬鹿だこいつ。

 まぁ馬鹿だから飽きないってのもあるけど。

 ずっと、は無理かもしれないけど、永く、は生意気にも願ってしまうところだった。ずっと、それが続けばいいと。
作品名:春節 作家名:空堀