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みっふー♪
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novelistID. 21864
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かぐたん&ぱっつんのやみなべ★よろず帳

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【別冊】おっさんぽえむのーと☆【注:若干マジモード★】



開け放した縁側に風が出てきた。衣桁に掛かった羽織を取って庭に下りる。
夢だということはわかっていた。飛石の向こうの桜の下に立っているあの人はあの頃の姿のままなのに、白い紬の生地を掴んだ自分の手は少年の日のそれではない。
「……寒くないですか」
肩を覆った羽織に重ねて置いた手が、意味もなく離れ難くて、あの人の淡い色の長い髪が含み笑いにふと揺れる。
「――ありがとう、」
笑んだ弾みにすいと引かれた繻子織の帯の手触りの下、平らな彼の腹腔が呼吸に波打つ。
「……、」
無意識に強張った指先が引き掛ける。押し留めるように彼が言った。
「君の子供ができればいいのに」
「ぇ」
唐突すぎて頭の中は真っ白に、くすくす笑いであの人が続ける、
「おかしいでしょう? この頃真面目に考えるんです、君に家族をあげられたらなって」
「――先生、」
背中からただ闇雲に抱きしめる、抵抗しない薄い身体が頼りなくて、訳のわからない情緒不安定、でたらめに力込めたところで腕の中のその確かさは変わらないのに。
「俺は……、ナンもいらないっス、」
やっとそれだけ口にして、ギリギリ堪えていたものが、これ以上揺さぶられたら、――夢なのに、夢だとわかっているのに、何で泣きそうなんだ俺、
「……、」
あの人の肩がくすりと揺れた、その余裕さえ今は身勝手に恨めしい。
「私もきっと、君と同じだったんでしょうね」
目を細めてどこか遠くを懐かしむ口調に、――彼が見つめる風景の先に佇むその人も、力任せの腕を緩めて彼に問う、
「センセもヤキモチですか、」
「……え?」
今度は彼が少し驚いたように顔を上げた。我ながらどーしよーもない溜飲の下げ方だと思う、抑揚を付けず一息に発して、
「ガキなんかできたらこっちほったらかしで、ソッチばっか構われるじゃねーかって」
「……」
呆けたように彼の動きが止まった。――え、ウソ違くて? いまさらちょっと焦ってみたり。
「――なるほどそういう理屈だったんですね」
髪を揺らして彼が相槌を打った。
「はぇ?」
またもこっちが置いて行かれる格好だ、けれど事情はお構いなし、
「積年の謎が解けました、」
首を傾げて愉快そうに彼が笑う。
「はぁ……?」
合点がいかないまま、四方に撥ねた頭を掻いて紛らせる。笑いを収めてぽつりと彼が言った。
「自分が子供だったから、子供のことなんか考えもしないんだとばかり思ってました」
蔵出しの褪せない秘密の標本か、そういう意図はなかったにしても。
「……俺がガキだってことですか」
――聞かなくたって二重の意味でまんまじゃねーか、
「前よりはだいぶオトナになったと思いますけど、」
俯き加減に笑いを堪えて彼が返す、茶化してる、ムッとする、ぐちゃぐちゃに抱き寄せた彼の首筋に頬を埋める。忘れもしない、彼の人の一部と化して染み付いた古い紙と墨の匂い。
「……やっぱりコドモですね、」
長い髪が着物を擦って揺れるたび、焚き染められた香が仄かに空を舞う。それも誰かの趣味なんだろうか、知りたくないし聞かないけど。
「ちょっと黙ってて下さい、」
羽交い絞めした腕に促して、
「ハイ、」
だからってそやって素直に頷かれるとどーしていいかお手上げで、――やっぱり俺は子供です、いっそ降参したくなる、背中側から交差に抱いた帯の手元に彼の呼吸が上下した。
「――……、」
急に気持ちが込み上げて、錯覚でも願望でも、この人の全てを許されていると、激情のまま重ね合わせた唇に息を塞いで熱を交わして幾度でも、眩暈に縒れる姿勢を腕に受け止める。
「……君が好きです」
乱した髪を胸に預けて彼が言った。
「だから君に何かをあげたい、」見上げる視線が微笑んで、「いまはとても、そういう気分なんです」
「俺は駄目です」
小さく息と一緒に吐き出す、
「どーにかやってセンセを独り占めすることばっか考えちまう、」
「……」
羽織を押さえて凭れた彼の肩が細かに揺れた。
「やっぱり私と同じですね」
「……だったらいーですけど、」
呟いて、腕の中の彼の身体を抱き締め直す。流れる髪が頬を撫でる、……何つかもー、髪質からして全然違う、自分とこの人に似ている箇所があるなんて少しも思いもしなかった。まるで別の世界の生き物だと思っていたから、こうして傍にいられるだけで奇跡みたいなモンだと、だからもしそれ以上の奇跡があるとしたら、あったらあったで悪くない、――イヤ、悪くないどころかいちご白酒でぶっ通し宴会しなきゃだ。


「……」
目が覚めたら、こたつ囲んでギュウギュウにくっついて寝てるワン公に頭半分喰われてヨダレだらだらだわ、つかてめーら人のハラ枕にしてんじゃねーよ! ――ホラ散った散った、眼鏡ボウズの方蹴飛ばしてる最中に、
「わふっ!」
ワン公の足齧ってたアルアル娘が寝言ほざいてくしゃみした。
(……。)
――まぁ、ひでぇポンコツだけどコレも一応家族ってヤツなんだろーか、寝癖の天パもそもそ掻いて考える、……あの人はもういないけど、あの人のことだから、きっとどこかでくすくす笑いながら見てるだろう。