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本気ですよ。

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「貴方が好きです」

 



 それは言われたら誰だって浮かれてしまうような、最上級の好意を示す言葉。
 いわゆる愛の告白。
 なのに、
「えー…」
「…なんですかそれ。冗談言ってるとでも思ってるんですか」
「いや、そうじゃないけど」
「じゃあ何だって言うんです。こっちは真剣に告白してるってのに」
「あのさ、ほんっとーに俺に告白してるんだよな?本気だよな?」
「だから言ってるでしょう。心外ですね」
「…じゃあさ、なんでお前そんな怒った顔してるわけ?」

 日々ヒーロー業に追われる虎徹とバーナビー。コンビを組んでからそれなりに日が経ち、それなりに慣れてきた。そう虎徹は思っていた。
 全く持って可愛げのない後輩だけれど、それなりに認められるヒーローだと、認めてやってもいいかななんて思っていた相棒だと。
 その相手が何をトチ狂ったか、自分に告白してきた。
 男で、相棒で、オッサンの自分に。
「怒ってなんていません」
 そう言う金髪の後輩は、思いっきり眉間に皺を寄せて憮然とした態度でそう言った。どう見ても機嫌が悪いとしか思えない。
「いやさ、そんな眉間皺寄せて好きって言われてもイマイチ告白されてる感じがしないっつうか。実感沸かないってか」
 頬を赤らめる様子も、照れる素振りも全くない。普段自分に向けられる冷ややかな視線そのままでの告白は、ただひたすら違和感を感じるだけだった。素直に述べる虎徹に対して、バーナビーは苦々しい声を出した。
「可愛く照れながら告白しなきゃ告白として認められないんですか。偏りすぎです、オジサン」
 これだから苛々するんです、と吐き捨てるようにバーナビーは呟いた。
「な、おま、苛々するってなんだよ!俺のこと好きなんじゃねーのかよっ」
「ええ好きですよ」
 あっさりと返される返事。虎徹はほとほと困り果てる。
(最近の若いヤツはみんなこーなのか?俺がおかしいってのか?)
 全く持って分からない。
「じゃあ、お前が俺のことを好きだとしてよ」
「だから、本当に好きなんです。仮定の話みたいに言わないでください」
「…じゃあお前は俺が好きで。でもよ、俺たちはヒーローだし男同士だし、お前と付き合うってのはできない。だから悪いけど、」
「は?何言ってるんです。付き合いたいなんていつ言いました」
「え??は?そういうことじゃねーの??」
 混乱する虎徹を冷ややかに眺めるバーナビー。
「じゃあお前、俺になんで告白してきたの?」
「好きだから告白した。それだけじゃ駄目ですか?」
「駄目じゃねーけど…」
「見返りなんて求めませんよ。そもそもお互いそんなことしてもデメリットになるだけだ」
 冷たいバーナビーの声に虎徹が異を唱え始める。
「デメリットってなんだよ。付き合ってく上でお互いを知ってくこともあるんだぞ」
「でもさっき貴方はできないと言った」
「…そうだけど。でも一般的な話としてはだな、そういうこともあるんだと言いたいんであって」
「どうせ一般的じゃないですよッ!!」
 言いつくろう虎徹の声に被さるように、バーナビーが激昂した。初めて聞く彼の怒鳴り声。いつもの皮肉でも嫌みでもなく、彼の心の叫びがひどく痛々しく見えた。
「僕らはヒーローで、男同士で、コンビを組んで戦ってて。普通の付き合いなんてできないのは分かってます!」
 バーナビーの叫びは止まらない。
「でも、言いたくてたまらなくなった。おせっかいで何をやっても駄目で、見てるだけで苛ついた。ロクなことをしないのに出しゃばって。バディに組まされてただでさえ苛々するのに仕事中も一緒で。平気で人に干渉して引っ掻き回して。正直殴りたくなるくらい人に苛立ったのは初めてですよ。番組のために一緒に出かけなきゃならなくなるし、散々だった」
「なあ、お前ほんとに俺が好きなの?」
 半分涙目の虎徹。さすがにはっきりと欠点や文句を言われるのは辛い。
 バーナビーの陰がつと虎徹に近寄る。
「散々で、最悪で、いつも貴方のことばかり考えるようになった。言いたいことを先回りで話されて。俺みたいなやつに笑いかけてきて。変な所で格好よくなって。土足で入り込んでくる貴方に苛立っていたのが、貴方のことばかり考える自分に苛立って、」
 少しずつバーナビーの陰が虎徹に覆い被さるような格好になり、それまでショック半分話半分だった虎徹がようやく気が付く。
「貴方がいないことを思って苛立つようになった」
 コツ、と額が触れ合う。眼鏡の奥の射貫くような瞳から、目が逸らせない。
「散々人を引っかき回すからですよ。おかげで好みまで変わりました」
 鋭い瞳のさらに奥、じんわりと感じる熱の籠もったまなざし。
「貴方が好きなんです、虎徹さん」
 口に触れる熱を感じて、ドクッと鼓動が鳴る。
 ああ、まずい。コイツ本気だ。
 虎徹はようやっと相棒の本気を悟り、火を噴くように熱くなった顔と早まる心臓をどうしようかと、抱きしめてくる男の腕の中で身悶えた。
作品名:本気ですよ。 作家名:藍野ろの