to be,or?
「…何も泣くことないだろ」
「泣いてないお兄さんこれっぽっちも泣いてないもん」
「もんじゃねーよもんじゃ」
人が焼いたスコーンを食ってからフランシスはわんわん泣きだした。
まずいまずいとはよく言われるが、まさか泣く程まずいとは思わなかったのでこれはさすがにショックだ。
両手で覆った指の隙間からぽたぽた流れ落ちる涙。まさか砂糖と塩を間違えたか?…いや、それにしても泣きすぎだろう。まったく男のくせにめそめそしやがってこいつは。
「あー…なんかうぜーなこいつ」
「…お前って本当ひどい奴だよ」
女みたいにすらりとした指の間から恨みがましい目がじっとり俺を責める。
「うっせ。食ったらさっさと帰れよ」
しっしと邪険に追い払うと、あくまで反発するように肩に感じる頭一つ分の重み。
俺のとは違う入念に手入れされたさらさらの金髪が首筋にかかって少しくすぐったい…などと言ってる場合ではなく。今日のこいつは意味が分からなくて気持ち悪い(まぁそれはいつもの事だが)だから何だか早く追っ払ってしまいたかった。
「お前何なん…」
「金曜日」
涙混じりの声ががらりと変わる。咄嗟にぎくり、と身をかまえてしまう。そして鼻先に突きつけられる人差し指。
「お前が女の子と歩いてんの見たんだけどあれ誰?」
「……」
「なあ、だれ?」
俺も泣いたら許されるだろうか。皿の上のスコーンをじっと睨む。
食うべきか食わざるべきか、今はそれが問題だ。
おわり