だんごののろい
そういえば、今朝は三郎と二人して寝坊して朝食を食べ損ねた事を今更になって思い出した。なるほど、通りでこんなに腹が減っているわけだ。
出されるままに僕は団子を食べ続けた。
しかしさすがにもうこれ以上は入らないと膨らんだ腹をさすった頃、親切な和尚は友達とみんなで食べなさい、とわざわざその団子を包んでくださった。僕は和尚の優しさが胸に染みて、何度も何度も頭を下げてからその包みを大切に胸に抱いた。和尚は笑みを浮かべて何度もみんなで食べるんだよ、と念を押した。その度に僕は分かりました、と頷いた。
帰りの道中、日は傾きかけてはいたものの、暗くなる前に無事学園に着いた。学園長に今回の件を報告した後、僕は和尚にもらった包みを胸に同級生たちを思い浮かべて、彼らがいつもたむろっている部屋へと足を向けた。
しかしその途中、中庭で鉢屋三郎の姿を見かけた。
こんな草むらで何をしているんだろう。さぶろう、声をかけるべく口を開く。その矢先。
ふと三郎の隣にもう一つ姿がある事に気付いた。
よくよく見るとどうやらそれは竹谷八左ヱ門の姿であった。二人は僕に気づいていないようで何やら顔を寄せ合って、こそこそ話している。
無意識に足音忍ばせ、僕は二人に近づいた。
次の瞬間、僕は凍った。夏なのに言葉通り凍りついた。
竹谷の舌が三郎の唇を這うように舐めていたのだ。
僕はたまらなくなって、矢のように駆け出した。二人は僕に気づいただろうか。わき目も振らず駆けて、駆けて、気づいたらぽつねんと図書室に立っていた。幸い誰の姿もないようで、それでも誰にも見つからないようにと本棚と本棚の間のわずかな隙間に身をねじ込んで膝を抱えた。埃にまみれたが気にしない。
それよりさっきの二人の姿が脳裏から離れない。ぶんぶん頭を振ったら、側頭部を見事本棚に打ちつけて地味に痛くて涙が出た。
怒りに任せて和尚からもらった包みを壁に投げつける。どうしてどうして。こんなものもらわなきゃよかった。そしたらあんな二人を見ずにすんだのに。
八つ当たりなのは分かっているが衝動はおさえられない。鉄壁の本棚に弾き返されたそれはぺしゃ、と間抜けな音を立てて僕の足下へ落ちた。乱暴に包みを広げ、さっきの衝撃でいびつな形になった団子を少しだけかじった。
美味しい。しかし美味しい。
あれだけ食べた後だと言うのに、僕はたまらなくなって次々と飲み込んでいった。
「う、うっ…」
こんなに美味しいのに涙が止まらなくなったのは、きっと和尚の言いつけをちゃんと守らなかったせいだと思う。涙でぐちゃぐちゃになりながら僕はごめんなさい、と何度もしゃくり上げた。
待っても待っても図書室の自分を誰も見つけてはくれない。泣き声が響く図書室は日が沈むにつれて次第に真っ暗になっていった。
おわり