たにんのはなし
「奥村先生と奥村くんがまさか双子やったなんてなぁ」
宙に視線を向けてやんわりとした口調で志摩は言った。それは燐に向けられたというよりも、ただ呟いただけのようなことばにもみえる。
「せやけど、じぶんら性格は似てるって言われたことないんちゃう?」
尋ねながら、ひょいっと姿勢を変えて志摩は燐を見た。燐と雪男の「双子」の話になることが気に食わないのか「ああ、ま、そだな」と、今度は燐が志摩のように呟いて答える。なんてわかりやすいやつやねん、と志摩は呆れたような視線で溜息まじりに眺めた。
「…お前はどうなんだよ?」
「え、おれぇ?」
燐が慌てたように話題を変え喋りだしたので、ほんまにわかりやすいやつ、とつい先ほど思ったことばを繰り返すように志摩はまた思うのだった。
じっとした燐の視線を頬に感じて、そういえば質問をされたのだと思い出し口を開く。
「おれはまあ、兄が4人と姉が2人ほどおって」
「おお」
「顔も性格もめっちゃ似てるってほどやあらへんけど、ねっこは似てるんとちゃうかな」
「ね、ねっこ……?」
「根本的な性格ってゆうたらいいんやろかなー、まぁ、兄弟みんな底はおれみたいな楽観的でちゃらいやつ、ゆーこと」
眉を寄せふんふんと頷く燐の向こうにふたりの兄の顔がぼやぼやと浮かぶ。
ふたりとも年は離れているけれど、それなりに仲は良かった。といっても、自分は高校生になる前に家を離れてしまっているから、これから少し距離が開くという時期に彼らのそばにいないだけかもしれない。でもそんなめんどう臭いことは嫌だし良かったかも、とひとり微笑した。
「年が離れてる方がぜってぇ良い」
「なんで?」
その燐の発言に志摩はすばやく返答した。語尾が強く上がったそれに少しぎょっとした燐だったけれど、すぐにぶつぶつと途切れ途切れに喋り始める。
「そんなに兄弟で比べられねーし、それなりに仲良くできるだろ」
ああそうか、この男はほんものの家族よりも友達みたいな家族をのぞんでいるのか?直接的すぎる燐の答えに志摩はおかしささえ覚えたのだったけれど、それをこらえて彼に言った。
「でも弟おらんかったら奥村君、絶対困るやろ?せやし、いなかったら良かったなんて一回も考えたことない」
な?、と笑顔で志摩は問うた。燐の言い方はわかりやすくて良い、先ほど悪い見方をしてしまったのを悔やむように声を上げ笑った。燐は、わざとらしい笑いが自分の態度に対するものかと思ったのか、余計に首をすぼめしおれた。
「もっと楽に考えなぁ」
あのふたりが何かを負っているのはうっすらと気づいていたが、彼らから何も言わないし誰も訊かないのは、知らなくて良いことなのだ。余計なことを知る必要はなく、知らなくても生きていける。それでもこの双子はほんとうにふたりで「ひとり」だとつくづく納得するのだった。
燐がのぞんでいる友達みたいな家族、それは自分の兄弟がとても理想的だと志摩は感じる。馬鹿をやって笑いあって、日々生活する。自分みたいにこんなに何もかもてきとうに見ないように生きているなんて、多分家族の中では誰もいないのだろうけど。燐に例えとして出した答えが嘘になったかもしれないと、申し訳なくなった。でもそれ以上は深く考えない、自分の考えすら途中で放り出すのが志摩廉造なのだからしょうがない、多分おれら兄弟の表面はみんなこんな感じやし。
ふたりの顔が浮かんだら京都で過ごしていたときが懐かしくなった。故郷が京都で懐かしいなんてどこかふるっぽい、この教室みたいに。どこかからそのにおいが漂ってきたみたいで体が涼しくなった。やっぱりこっちに来て正解やな、と志摩ははじめて真面目に思った。