愛しさ故、君を渇望する
※臨→←新
とある高級マンションの最上階にて。
白衣を着た、見るからに胡散臭い藪医者のような容姿のメガネの男。
その男と互いに向かい合うように反対側のソファーに座る。
すると男──岸谷新羅は始終絶えない笑みを浮かべながら言った。
「すごい迷惑」
にこにこと笑ってはいるが、発せられた言葉には棘のようなものを感じた。
早く帰れ、そう言われているような(実際は言われている)気がしなくもない。
けれど、そんなことで凹むほど柔な性格ではないことは自分がよくわかっている。
「ひっどいなあ。せっかく新宿から出てきたっていうのに…それに数年ぶりにあった恋人にそれはないんじゃない?」
「…で?その数年ぶりに出てきた元、恋人は僕に何か用でもあるのかな?」
元のとこを強調して笑ってはいるものの、何か背後に纏う雰囲気が黒い。
そんな新羅に顔を引き攣らせながらも言ってみる。
「んー…用っていうか、ね」
なんか──会いたくなった?
高校時代。ただ慌ただしく過ぎ行っただけの青春。今はもう昔のあの頃にもう一度戻ってみたい、そう思う時が、ある。嘗ての友人─はたして、そう呼べる人物がいたかどうかは知らない─に会ってみたい、そう思ったんだ。
思い立ったら即行動に移すのが良いだろうと思ってさ。
久しぶりに訪ねてみた。
「…迅速果断だね」
「会うだけだし、何も考えないよ」
「君は下衆な奴だからね。信用できない」
酷いなあ。そうおどけて見せると、俺を帰る気がないことを悟ったのか、溜息を吐く。
そうそう、世の中には諦めも肝心なんだって。
それにここで俺を追い返して困るのは、お前だよ?
「俺に、会いたかったでしょ」
「勝手に来たんだよね?」
「会いたかったね」
「君が?」
「そう。俺が」
俺が君に会いたくなったんだよ、と言えば気持ち悪いと一蹴されてしまった。愛想も何もない。これだけ人が素直になってやってるのに、意地っ張りめ。
そのことを視線で訴えれば更に深い溜息を吐かれる。
目の前に置かれたカップを取って、紅茶の香りを嗅いでいるとソファーに沈んだ新羅が視線だけを寄越して聞いてきた。
「…大体、何で今更会いに来たんだい」
今更、その言葉に苦笑すれば新羅がだんだん不機嫌になっていくのがわかって。
これ以上機嫌を損ねてしまえば、ここまで来たのが水の泡になると思い、一頻り肩で笑ったところで笑いを引っ込めて、新羅を真摯に見つめて答える。
「そんなの、俺にだってわからない。自分で考えてみなよ」
どうしてだろうね。自分でもよくわからないんだ。
だけどこれだけははっきりと言える。
愛しさ故、君を渇望する
(俺はきっと、今でも君を求めている)
作品名:愛しさ故、君を渇望する 作家名:煉@切れ痔