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それ以上いうな。お前を側に置けなくなる

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「ドタチーン」

そう呼ばれ、読んでいた本から視線を外し、声がした方へと向ける。
すると両手に色違いのマグカップを持った恋人が笑顔でやってきた。

ココアを入れたのか、部屋には甘ったるい匂いが充満している。
はい、と手渡されたのはこの前二人で買い物に行ったときにお揃いにしようと言われて買ったマグカップだ。

「サンキュ」
「どういたしましてー」

それを受け取ってお礼を言えば、にっこりと笑うソイツに、俺は抱きしめたい衝動に駆られた。

「どうかした?」
「いや、何でもない」

まあ、そこはいい年した大人ということもあってか理性が利いた。
けれどさっきのようにまたちょっとしたことで不意を突かれてしまう辺り、自分もまだ若いと実感する。

「ふう…」

一服すると読みかけの小説を手に取り、栞を引いて本のさっき途中になっていたページを開く。
そしてまたソファーを背凭れに小説を読む

俺をじっと見つめる臨也には気づいていたが、敢えて気づかない振りをした。

「ねぇ、ドタチン」

呼ばれた嫌なあだ名に眉を寄せて、視線だけで問いかける。
すると今度は俺の本を奪い取ってゴミを捨てるかのようにポイッと後ろに投げて、直ぐさま猫のように体を擦り寄せてきた。

その行動に呆れながらも自然とソイツの髪や耳、頬を撫でている自分に苦笑。やはり俺は臨也にとことん甘い。


だが、本を粗末に扱うのは頂けないので、一応注意はしておく。

「本を投げるな」

諭すように、強く、親が子に言い聞かせるようなものだ。
こうでもしないとコイツは話を聞かないからな。

機嫌を損ねたのか、上げていた顔をまた俺の胸に伏せてぐりぐりしている。これは拗ねている証拠だ。

「臨也」

やれやれと心の中で溜息を吐くと、臨也を呼んだ。
不機嫌のままでいられると後が厄介なのを知っている俺はどうにか臨也の機嫌を治そうと考える。

漸く打開策を見出だした俺はそれを実行するため、もう一度名前を呼ぼうとした。だが、それよりも早く臨也が口を開き、俺を遮った。

「ドタチンが構ってくれてたら、投げたりしなかったよ。寂しかった。久しぶりだし、本ばっかり夢中になんないで、俺のこともちゃんと構ってくれなきゃ、や、んっ…!」

言い終える前に臨也を引き上げてその唇を言葉ごと吸いとった。甘い。けれど濃厚で、病みつきなってしまう。

「んっ、ん」

柔らかな唇の感触諸ともたっぷり味わうと、臨也を離す。
肩を上下させ、息も絶え絶えになっている姿に体の内側が焼けていくように熱くなる。
本当、まだ若いな、俺。

「どたち、もっとぉ…」

…まあ、なんだ。
とりあえずだな。


「お前もう黙れ」





それ以上いうな。お前を側に置けなくなる